「零売」とは? 処方箋ナシで医療用医薬品を購入できるって本当? – 薬プレッソ

「零売」とは? 処方箋ナシで医療用医薬品を購入できるって本当?

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処方箋なしで医療用医薬品の一部を購入することができる「零売」と呼ばれる販売方法をご存知でしょうか。
一見、患者さんにも薬剤師にもメリットがありそうな方法ですが、東京都内では池袋と神田にある零売専門薬局のみと、まだまだ店舗自体が少ないという現状です。

そこでこの記事では、零売の基礎知識やメリット・デメリット、問題点などを述べていきます。
今後ますます注目されるであろう、零売。きちんと知識を身につけていきましょう。

1 「零売」とは?

まずは、零売に関する基礎知識を見ていきましょう。

1‐1 「零売」とはどんな意味?

「零売」とは、販売の一形態であり、医療用医薬品を処方箋がなくても販売することを指します。分割販売と呼ばれることもあります。また、処方箋医療品は、原則として零売することはできません。
一般的な零売は、容器から取り出し、お客さんが必要とする分だけを販売しています。
現在、処方箋がなくても販売することのできる医療用医薬品の数は比較的多く、7000種類ほど。薬の成分にすると、3500~4000種類もあるのです。

1‐2 「小分け」と「零売」の違いとは

『1‐1 「零売」とはどんな意味?』での説明のみだと、小分けと変わらないような気がしてしまいますよね。
小分けとは、小さく分けること、細かく区分することを指します。一般的な需要に応じるため、あらかじめ既製の医薬品を容器もしくは被包から取り出して、薬剤の品質を変化させることなく、分割充填することです。
そのため、薬事法第12項第1条に規定する製造業の許可が必要になります。

零売の場合は、特定の人の求めに応じて通常の小売包装単位と考えられている容器や被包に収められた医療品の一部をその都度分割して販売を行います。
必要な分だけ分割された医療品であっても、薬事法が適応されます。通常の医療品と同じく、容器・添付文書などに薬事法第50条および第52条で規定する表示が記載されていなければなりません。更に厚生省薬務局薬事課長通知により零売者の責任を明確にしなければならず、容器や被包に氏名と住所を記載するべきとされています。

似ている言葉に思えても、小分けと零売では大きく意味が異なっています。零売のつもりで小分けを行ってしまうことのないよう、注意したいですね。

2 「零売」のメリット、デメリットとは

処方箋がなくても医療用医薬品が処方できるとなると、一見メリットばかりだと思ってしまいますよね。しかし、零売専門薬局は全国でも数店舗しかありません。
零売専門薬局がなかなか増加しないのは、デメリットも存在しているからなのです。メリットだけではなく、デメリットもきちんと理解し、零売を様々な角度から見ていきたいですね。

それでは、零売のメリットとデメリットを見ていきましょう。

2‐1 零売のメリット

零売のメリットは、なんといっても処方箋がなくても医療用医薬品を処方できる点です。
まず、処方箋を出さずに薬を販売するので、病院に赴いて医師に診てもらう必要がありません。薬剤師と患者さんが相談し、販売するというシンプル形です。病院に行く時間がない方でも通うことができるでしょう。
市販の薬よりも効き目の強い医療用医薬品を安心・安全に使用してもらうために、薬の効き目や副作用、飲み合わせについてもじっくり相談することが可能です。
事前に医師にかからないので、健康保険は利きません。値段が高くなってしまうと思いがちですが、金額に大差のない場合も多くあります。
病院に行くとかかってしまう初診料、診察料、調剤薬局での受付でかかる代金が発生しないので、安くなるのです。

処方箋がなくなることによって、患者さんとより近い距離で関わることができるようになるでしょう。

2‐2 零売のデメリット

零売のデメリットは、処方箋がないからこそ、安全性を確保する手間がかかることです。
医者に診てもらう手間がなくなるということは、患者さんの体調や健康の変化がある場合、薬剤師自身が気付かなくてはなりません。アレルギー歴や副作用歴などの薬歴の管理が必要になり、処方箋がある場合と比較して手間暇がかかってしまいます。

零売に指定されている医療用医薬品は、安全性の高いものばかりですが、中には副作用があるものも存在します。
安全性を確保し、患者さんの健康を守るためにも、薬剤師が管理を行わなければならないことや負担が増えてしまう可能性があるのです。

3 零売の問題点とは

零売専門薬局が増えないのは、様々な問題点があります。

まずは、大きな副作用が起きたときの救済方法が不十分である点が挙げられます。
零売で購入した薬が原因で副作用が生じてしまった場合、「医薬品副作用被害救済制度」の対象にならない可能性があります。
医療品副作用被害救済制度とは、薬を正しい方法で使ったにも関わらず起こってしまった副作用に対する補償のことです。健康被害を受けてしまった人に対して、医療費や生活費の補償、年金を給付することにより救済しています。
零売が原因で万が一大きな副作用が起きても、補償を受けることができない恐れが懸念されているのです。

また、医師の処方権との兼ね合いも問題視されています。
処方箋がなくても薬を処方するということは、少なからず病院の収益減少につながります。例えば、無医村に支店がある場合や地域医療が崩壊する地域で開業した場合などは、問題視されないかもしれません。しかし、都内などの大都市での開業を考えているのであれば、周囲の状況や徒歩圏内に病院がないかなど、確認しておかないと対立関係になってしまうことも考えられるのです。

4 医療用医薬品で零売できるもの

医療用医薬品の中で、零売できるものはどのような基準で、どんな薬があるのでしょうか。

4‐1 零売できるもの・できないものの見分け方

医療用医薬品は、大きく「処方箋医薬品」と「処方箋医薬品以外の医療用医薬品」の2種類に分類しています
この「処方箋医薬品以外の医療用医薬品」に分類されていると、文字通り処方箋医薬品ではありません。そのため、処方箋がなくても薬局・薬剤師の判断で個別に売買ができます。

「処方箋医薬品」は、処方箋専用の薬品なので、処方箋がなければ販売することができません。

医療用医薬品がどちらに区分されているのかは、『医療用医薬品の添付文書情報』で調べることが可能です。

例えば、ロキソニン、ムコスタ、セルベックス、ムコダイン、ムコソルバンなどが挙げられます。ビタミン剤や風邪薬、漢方などは、ほとんど「処方箋医薬品以外の医療用医薬品」に含まれています。

4‐2 「処方箋医薬品以外の医療用医薬品」の販売ルールとは?

この「処方箋医薬品以外の医療用医薬品」に対する法的規則はありませんが、厚生労働省が通知(薬食発第0330016号)にて、販売ルールを明確にしています。

やむを得ず販売を行わなければならない状況かつ、必要な受診勧奨を行ったうえで、

  1. 必要最低限の数量に限定する
  2. 調剤室または備蓄倉庫での保管と分割
  3. 販売品目、販売日、販売数量ならびに患者の氏名および連絡先など、販売記録の作成
  4. 相互作用・重複投薬防止のための、患者の薬歴管理の実施
  5. 薬局において、薬剤師が対面により販売をする

の5条件をクリアしなければなりません。

また、販売にあたっては、処方箋に基づく薬剤の交付または一般用医療品の販売などと同様に、以下の条件にも留意しなければなりません。

  1. すべての医療用医薬品について、一般人を対象とする広告を行わない
  2. 医療において用いられることを前提とし、これを十分に配慮した服薬指導を行う
  3. 外箱の写しなど新薬事法第50条に規定する事項を記載した文書及び同法第52条に規定する添付書又はその写しの添付を行うなどする

この様々な販売ルールをクリアすることで、零売を行うことができるのです。

5 おわりに

零売は、現在注目を集め、今後日本で実行されていく可能性のある販売方法です。
しかし、薬局経営や医師との関係性の面から、様々な議論がなされているのも事実です。その中でも、最も大切なのは患者さんの健康を第一に考えていくことです。

広い視野を持ち、零売について考えていきたいですね。

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薬プレッソ編集部

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