「くすり」を学べる施設シリーズ
「くすり」を学べる施設シリーズ第1回 入場無料の体験型施設「Daiichi Sankyoくすりミュージアム」の魅力

このシリーズでは、家族や友人、大切な人、誰でも楽しく薬について学べる施設を紹介していきます。
「薬ってすごいんだぞ!」を、自分の身近な人に知ってもらえる機会として、また自分自身も改めて学べるような施設をまとめました。
<目次>
【”見て、聞いて、触れて、くすりをもっと身近に”をテーマに楽しみながら学べる!】Daiichi Sankyoくすりミュージアムに行ってみた。
今回は日本橋にあるくすりミュージアムに足を運び、実際に館内施設を体験してみました。
くすりミュージアムは、昨年1年間で2万2000人、2012年の開館以来、累計で10万人(2018年6月末現在)が来場した人気施設です。館内は薬について楽しく学べるような工夫が詰まっており、ゲームなどを通じて体験しながら薬についての知識を深めることができます。しかも、入館料はまさかの無料。これだけの施設で無料なのは本当に珍しい……。
ところで、なぜ日本橋なのか、そこにも実は理由があります。日本橋は昔から薬と縁が深い場所だったのです。
昔から薬種問屋として有名だった日本橋
日本橋は江戸時代から薬種問屋として発展しました。その歴史は徳川家康までさかのぼります。彼は江戸のまちづくりを考えた際にまず日本橋本町を薬種問屋のエリアとして選びました。その当時の歌がこんな形で残っています。
「三丁目 匂わぬ店は三 四軒
四丁目もまだ ちらほらと匂う也」
それだけ多くの薬種問屋が一堂に会している場所だったんですね。事実、日本橋本町には今も製薬メーカーが多く立ち並んでいます。1687年に刊行された『江戸鹿子』(作者:藤田利兵衛)という書物には、江戸には36軒の薬種問屋・製薬屋があり、医者の数は72にのぼったという記録があるほどです。
「一粒の薬」ビデオの中で紹介された薬に関わる人の思い
くすりミュージアムに行くとまず、「一粒の薬」というビデオを見ることができます。この「一粒の薬」がいきなりカッコイイ……!
上図の円卓のような形になっていて、ここにビデオを映し込むような感じで始まります。ちょっとした未来感を味わえますね。
ここでは薬に携わる人の思いを知ることが出来ます。
「人の命を救いたい、病気を治したい。」
そういった気持ちが新たな発見を生み、長い歳月をかけてようやく1つの薬が出来上がるのです。
過去には生まれてすぐ亡くなってしまう人もいたこと、怪我による細菌の感染やインフルエンザ感染で亡くなってしまう人がたくさんいたこと、新たな薬の発明や普及により多くの人の命を救うことができる世の中になったこと等が数字で紹介されています。
昔はちょっとした怪我で死んでしまうなんてことも普通にあったわけで、長生きできるようになった「今」を生きているって嬉しいことだよなあ、とあらためて考えてしまいます。
館内のゲームを体験するためのメダルをゲットしよう!
館内の映像や解説を見るためには2階でメダルを受け取り、カプセルエントリーで登録する必要があります。
早速、実際にやってみました!
まず、一人一人に手渡されたメダルをはめ込んで、言語や性別などを登録して簡単なアンケートに答えます。
はめ込むと色が変わったり、くるくると回して操作したりするところが、なんとも近未来的です!(スタッフの方が使い方を説明してくれます。)
アンケートの統計はカプセルエントリーの隣にある「くすりの気になる木」に集計された結果が更新され表示されます。
他の人の薬に対する意識や、素朴な疑問を見ることができます。
ここで出てきた疑問は、実際にミュージアム内で紐解くことができるのでまたワクワクが高まります。
館内の至る所にメダルをはめる場所があります。少し暗い部屋でメダルをはめると、写真のようにボワっと光ります。すごい!カッコイイ……!
ジェームスと一緒に、楽しく学びながら薬の謎に迫る!
くすりミュージアムにはくすり探偵の「ジェームス」と見習い助手の「くすりーな」ちゃんというマスコットキャラクターがいます。このミュージアムでは、ジェームス、くすりーなちゃんと一緒に薬についての謎を解き明かしていきます。
くすりミュージアムは、見て・聞いて・触れて、楽しみながら学ぶことができるのがポイントです!ここからは、実際に体験したコーナーを紹介していきます。薬剤師の皆さんはご存知のことが多いかと思いますが、ご家族でミュージアムに行って子供に教える、なんてシチュエーションにはぴったりですね!
それではどんな体験ができるのか具体的に見ていきましょう。
1)「人体の中で薬の動きはどうなるの?」の謎
巨大な人体模型の中で薬はどのように巡るのかを体験することができます。
例えば、注射を打つと静脈から
心臓をまわり、体中に拡散!
そして薬が目指していたターゲットにたどり着くと、効果を発揮します。
薬が役目を終えると、腎臓を通って尿と一緒に外に放出されます。
このように人体模型を使ったシミュレーションをすることで、薬が体の中をどのように巡っているのか学ぶことができます。
2)「薬の種の見つけ方」の謎
そもそも薬ってどうやって作られているんでしょうか。それを知るためには、まず“薬の種”を見つけないといけません。ここで言う“薬の種”とは薬の種となりうる物質のことを指します。あらゆる化合物の中で、薬として役立ちそうなもののことをヒット化合物と呼びますが、くすりミュージアムでは、それを見つけ出す過程をゲーム形式で体験することができます。
色の濃淡でヒット化合物のエリアを推測して……
91%の化合物をゲット!100%まであるらしいのですが、残念ながら僕は見つけ出すことができませんでした。でも、とても楽しい!
実際にはこのような工程を「化合物ライブラリー」というあらゆる化合物が存在する場所で組み合わせていきます。
最近は、ハイスループットスクリーニングという形でロボット化されていて、これまでよりも早くスクリーニングできるようになっています。
くすりミュージアムでは、薬ができるまでの過程のビデオも紹介されています。その中でこんな言葉がありました。
「私たちは微生物から薬の元となる天然物を探します。これは試行錯誤が必要な地道な作業です。どうせやるならまだ見つかっていない薬を作りたい。患者さんや患者さんの家族を笑顔にする薬を1つでも多く作れたらいいなと思っています。」
確かに、膨大なパターンから薬の種を探し出す作業は大変ですが、それができれば多くの方を救うことができるという意味で、とても有意義な活動ですね。
3)「薬にはなぜいろんな形があるのか?」の謎
薬にはいろいろな形がありますが、くすりミュージアムではそれに応じてどんな作用の違いがあるかを確認することができます。
例えば、胃で溶ける薬と、腸で溶ける薬があります。腸で溶ける薬は腸溶性と呼びます。胃で溶ける薬は胃液が酸性なので酸性で溶け、腸で溶ける薬はアルカリ性で溶けるということになります。
これは溶ける場所を考えておくことによって薬の働きに違いが出てくるということだそうです。
通常、胃液は酸性、腸液はアルカリ性ですが、胃液と腸液が腸内で中和されることから、くすりミュージアムの展示では「胃液(酸性)の溶液」と「腸液(中性)の溶液」での薬の溶け方の違いについて紹介しています。
4)「薬を組み立てる」の謎
病気になっている細胞に合致する薬はどんな形なのか、を実際に3Dパズルで体験することができます。
テトリスみたいな感じでかなり楽しめます……!大人が熱中しちゃいそう。
ここでは、どのようにして薬を組み立てているかを疑似体験できるようになっています。
そもそも、体は構成されるあらゆる物質のバランスが取れている状態です。そのバランスが崩れた時に病気になります。
ミュージアムでは「薬は鍵、細胞が鍵穴。」と教えてくれました。例えば、インフルエンザに対して薬で治療する場合、インフルエンザウィルスのたんぱく質をターゲットにします。そこに対して、薬を投与することで、インフルエンザウィルスの活動を抑え、その間に体は抗体を生成できます。病気を治すのは、結局は体の自然治癒力です。その力を十分発揮できない時に薬が手助けをしてくれます。
鍵と鍵穴のように薬と体の受容体関係をテトリスのようなゲームを使って、薬の形について学ぶことができました!
5)「蛇からできる薬」の謎
薬の中には蛇からできるものもあります。しかも、マムシが持つヘビ毒から取れる薬です。直感的にはむしろ体に悪いんじゃないか、と心配になりますが、
血圧降下作用や利尿作用の効果が認められています。
ヘビ毒から薬が現実に作られているということは、先人が蛇の毒から薬の種を見つけ、その薬を作り出したということになります。これは本当にすごいことですよね……。ヘビ毒から薬を作り出す光景の魔女感がすごい……。でも、そういう努力の末に、僕らは当たり前のように薬を使えているわけです。壮大な歴史実験のおかげで生きているありがたさを感じます。
6)「薬の正しい飲み方」の謎
薬の正しい飲み方をミュージアムではクイズ形式で説明してくれます。子供が疑問を持ちそうな「ジュースやミルクと一緒に薬を飲んだらいけないの?」というような素朴な質問に答えてくれます。
そもそも薬には「主作用と副作用」の2種類の作用があります。主作用は、薬本来の目的の働きのことで、副作用は薬本来の目的以外の好ましくない働きのことを言います。主作用を発揮させ、副作用のリスクを減らすために、正しい飲み方は存在しているわけですね。
未来の薬のあり方とは?
最後に未来の薬について考えることができるビデオを見ることができます。ここは空間がすごくカッコイイ……!
3面の壁を利用した大型スクリーンで動画が流れ、空間全体を包み込むサウンドは大迫力です。
「先端のサイエンスを基に、がんに苦しむ人に向けた薬をいち早く届けたい。それが使命であり、想いである」、そんな形でくすりミュージアムの映像は締めくくられていました。
薬剤師にとってのくすりミュージアムの存在とは?
今回、案内をしてくれた第一三共㈱ 広報の樋口さんに薬剤師の方へのメッセージをお聞きしました。
「日々の暮らしの中で身近にある『くすり』ですが、意外と知らないことも多くあります。無料の施設ですが、大人の方でも十分見応えがあり、楽しんでいただけると思いますので、ぜひいらしてください。
コレド日本橋など街の開発も進んでいるので、ぶらりと日本橋で遊ぶついでに来ていただいてもいいかもしれません。」
確かに個人的にも無料とは思えない設備クオリティの高さに、驚きの連続でした。近隣にあるコレド日本橋にはいろんなレストランも充実していますので、日本橋で遊んだついでに楽しく薬について学ぶ、なんてプランも良さそうですね!
今回取材させていただいた「Daiichi Sankyoくすりミュージアム」ですが、何よりも薬剤師にとって嬉しいのは、「自分たちの仕事を、誰かに目に見える形で紹介してくれること」ではないでしょうか。薬が世界に貢献したことを具体的なエピソードや体験型のゲームやクイズを通じて、丁寧に伝えてくれます。また、薬を処方していても製造過程までは専門外なので詳しくない・・・という方にも、「薬が出来るまで」を知る機会になるかもしれません。そういう意味では、改めて薬を扱う仕事に対して誇りを感じさせてくれるとともに、もっと深く薬について考えることができる、貴重な場所ではないかと思います。
また、僕のように元々薬にすごく興味があったわけではない人にとっても十分楽しめる施設になっていました。
この取材に行ったとき、「薬について考えるとき、いつも誰か大切な人のことが頭に浮かんでいた気がする」と同行した取材メンバーが言っていました。確かに、薬は誰か大切な人を助けるために生まれた歴史があります。
週末のお出かけプランに迷っている方にはおすすめのスポットです。この機会にお子さんやご家族、大切な人と遊びに行くことで、絆もより深まるのではないでしょうか?
※館内は撮影不可ですが、今回は取材のため特別に撮影許可をいただきました。1階にフォトブースが設けられていますので、撮影を希望される方はそちらをご利用ください!
Daiichi Sankyoくすりミュージアム
〒103-8426 中央区日本橋本町3-5-1
※駐車場のご用意がございません。公共交通機関にてお越しください。
地下鉄銀座線・半蔵門線「三越前駅」
A10出口 徒歩2分 A10番出口の階段を上り、階段のつきあたりを左に曲がると中央通りに出ます。
中央通りを左をへ10m進み、「室町三丁目南」交差点を左に曲がり210m直進した左側
JR総武線快速「新日本橋駅」
出入口5 徒歩1分 駅地下通路を進み、出入口5の右手階段(日本橋本町1-3丁目方面)を上り、50m直進した右側
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