小石川植物園に行って教授に訊いてきた「薬剤師にしか通じない話」後編 – 薬プレッソ

小石川植物園に行ってきた

小石川植物園に行って教授に訊いてきた「薬剤師にしか通じない話」後編

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薬剤師が選ぶ「行ってみたいスポット」でも名前が多く上がった「小石川植物園」を、現役の薬剤師さんとともに探訪する企画。薬用植物がひしめく植物園を舞台に、分類学者と薬剤師がプロならではのディープな会話を繰り広げています。
前回に引き続き、小石川植物園(東京大学大学院 理学系研究科附属植物園)所属の教授に率いていただいての園内周遊。
薬剤師である高山先生(仮名)との会話に火が付き、どんな話題が飛び出すのか予測不能になり始めた必見の後半戦、スタートです!

大恩ある(?)ウコンと感動の対面!

教授:「これはサフランですけど、今は寝ているので、土の中に球根がある状況ですね」

サフランは土のベッドの中で休眠中。シーズンは春とのこと。スパイスの中でも特に高価とされているサフランですが、小石川植物園には普通に植えられているのですね。

高山先生:「逆に今の季節、見ごろなものって何ですか?」

教授:「これ、ガジュツとかウコンの花が咲いていますよね」

え、ウコン!
終電を逃すまで飲んだくれた日でも、翌朝の二日酔いから解放してくれるあのウコン!
成人になったばかりの若かりしころから十数年の時を経て、ここ小石川植物園で感動の対面です。

あれ、でもなんか、我々の知ってるウコンと色が違うような……?


▲ 青々と茂るウコン。そこはかとなく違和感が…。

ウコンって茶色じゃなかったっけ……?

教授:「いやいや、土の中にショウガと同じような塊の茎があって。根っこみたいに見えるけど茎なんです。それを使うんです」

何と。我々が知ってるウコンは土の中に埋まってる部分だったんですね。知っているようで知らないこと、多すぎです……。

「俺は死んでもいい香りがする」武士の誇りとフジバカマ

教授:「これからこのフジバカマが季節ですよね。秋の七草に入っていますから」


▲ 凛と立つフジバカマ。開花時期は10月~11月ごろ。

教授:「植物全体からいい香りがするので、昔の戦国の武将がこれを兜の中に入れて、やられちゃったときに恥ずかしくないようにしたとか」

薪場:「へえ〜。ん? やられた時に恥ずかしくないように?」

教授:「だって、首を斬られたときは、お香を焚くじゃないけど、いい匂いがしたらいいじゃないですか。そういう時のために、これを兜の中に忍ばせていたということ」

なんだかすごく一般的な感覚のように語られた教授でしたが、ちょっと「死に際にいい匂いをさせたい」気持ちは現代人にとって共感しづらいような……。
昔の戦国の武将は散り際を大事にしたそうですが、兜の中にフジバカマを入れるのがその手段の一つだった、ということでしょうか。

フジバカマよりもいい匂いがする「ゴカ」。薬効成分と味・匂いの関わり


▲ ウドを指差す教授。

教授:「この辺、野菜で食べるウドですね。こっちが木の芽として出てくるタラノキ」

おお、なんだかお腹が空くラインナップが混じり始めて来ましたよ!

教授:「で、こっちがウコギ。中国に五加皮酒と言うのがありますけど、この手の仲間を中国ではゴカって言うんですよ。これはですね、もっといい匂いがする」

高山先生:「へえ〜!」

「薬剤師として勤務していると、製剤になったものしか出会わない」と語る高山先生、野性味あふれる教授のトークに目を輝かせています。やはり植物を直接目で見て触れることができるというのは魅力的なようで……。

教授:「たいていの薬効成分は、匂いがあるとか味があるとかですよね」

高山先生:「そうですね、そういうことが多いです」

「よね」と聞かれても「そうなんですか?」としか返すのが難しい質問でしたが、薬剤師さんには実感の持てる話のようです。
その理由について詳しく伺えたのですが、その話はまた後ほど。

「マオウ」再臨。それからナツメのこと。

「薬園保存園」から少し歩いて、「分類標本園」に移動しました。

教授:「これ、さっきのマオウと同じものです」

名前からしてインパクトのあるマオウ、再びの登場!
先ほどは雑草に埋もれるようにして細々と生えていたマオウでしたが、こちらでは「この世はマオウの天下」と言わんばかりに生い茂っています。


▲ほとばしる生命力を抑えきれないマオウ。

教授:「ここは日差しが強いのでよく育つ。もともと、荒地、砂漠みたいなところにある植物なので、こっちの方が合っているんです」

なるほど、マオウは砂漠や乾燥した山地が出自。RPGの冒険の場にもありがちなシチュエーションに、妙な納得感があります。

教授:「あと有名なのは、このナツメですよね。これ自体は多分そんなに強い効果はないけど、他の薬の副作用を薄めるのと、甘さのおかげで飲みやすくなる。それこそ、ほとんどの薬に入ってる。今これちょうど実がなっていますけど、熟せば果物としても食べられます」

薪場:「ナツメはどこを薬として使うんですか?」

教授:「この実を干して使う。甘いと言ったけど、中国では小豆のあんこよりもナツメのあんこのほうが普通。おまんじゅうみたいなお菓子に、ナツメのあんこが入ってる」

なんと! ナツメという植物、中国では小豆に代わって僕らの小腹を満たしているんだそうです。13億人の胃袋に収まるナツメ。すごみがありますね。

大正15年の台風で倒れた「サネブトナツメ」とその子供たち。

教授の案内に従い、さらに樹林の奥へと移動。だんだん木が茂って、森っぽい雰囲気になってきました……。

教授:「あそこにあるのがサネブトナツメという薬木なんですけど……」

え。でっか! しかも周りに似たような木がたくさん……!

教授:「ナツメの木は根から苗が出るので、どんどん根が広がってくると苗が地面から顔を出す。これみんな、このサネブトナツメの子供です。たぶんね」

高山先生:「すごい……!」

薪場:「これも薬用植物なんですか?」

教授:「これは有名です。さっきのナツメよりちょっと実が大きいので利用しやすい。サネブトの字は、実が太い(実太)と書くんだと思います。薬効はナツメと同じで、ちょっと甘みがあって、滋養に良い」

薪場:「これだけ立派なものだと、より効果がありそうな気も……」

教授:「(笑)そうですねえ、この株でなかなか実がなったのを見たことがない。一株ではなりにくいのかもしれない」

どくだみは毒を取る! でも樒(シキミ)の毒にはかなわない……?

教授:「これ、民間でよく使われるどくだみです。毒を取るっていうんで、うちの家内も妊娠したときずっとどくだみ茶を飲んでました」

薪場:「え、どくだみって毒を取る植物だったんですか? 毒があるやつだと思ってました」

高山先生:「はとむぎとかどくだみとかは解毒作用が強いので、そういうお茶を好んで飲まれる方もいますよね」

薪場:「ハトムギ玄米……(以下自粛)とか?」

高山先生:「ええ。ああいうのとか。肌が綺麗になるっていって飲んでいる人もいます。……逆に、毒を持っている植物ってここにありますか?」

ん!? 薬剤師が毒に興味を持っている!?
結構ダメな組み合わせな気がしますが、この流れ大丈夫でしょうか。

教授:「えーっと、ここの中で一番危ないのは、たぶん『シキミ』だと思います」

薪場:「すごい縁起悪そうな名前ですね」

教授「どこにでもいっぱいあるんです。これはね、ほんとは危ない。どっかこの辺に……」

そう言って、辺りの木の葉っぱをめくり出した教授。危ないと言いつつ探す気マンマンです。

教授:「あ、これだ。これが樒(シキミ)です」


▲ 樒の葉と実。中華料理に使われる八角の近縁種でよく似ている。

薪場:「何でもない、どこにでもあるような木に見えますけど」

教授:「よくあるんです。もう神社とかに必ずあります」

あるんだ……!
そこらへんの神社に毒物。もう簡単に推理小説のトリックが一つ作れそうなシチュエーションですが……

薪場:「これを毒って知ってる人、あんまりいないですよね」

教授:「うん。だからいいんじゃない」

「あまり知られていないからこそ、そう頻繁には大事にならない」と言いたげに笑う教授。う〜ん、それでいいんでしょうか……。
せめてこの記事によって知ってしまった方は、くれぐれも口にしないようにご注意を! シキミの実を口にするのはフィクションの中だけにしておきましょう!

もう一つの代表的毒物「トリカブト」と、科学者の好奇心の話。

教授:「あと毒があるの、まあトリカブトはここにはほとんどないですね」

高山先生:「ああ。ないんですね」

心なし残念そうな高山先生……。

薪場:「トリカブトにまつわる思い出でもあるんですか」

高山先生:「あ、いえ。うちの教授なんですけど、トリカブトの毒性を知りたくて、本当にかじって舌が痺れてきたって伝説があるんです」

薪場:「すごいエピソード出てきた。冗談で聞いたんですけど」

教授:「あー。よくいますね。そういう勇気のある人」

薪場:「マジですか」

教授:「僕の分類の友達も、手の傷についたら、しばらく痺れてたとかなんとか」

薪場:「……」

何だか薬学や分類学のプロフェッショナルが違う意味で精鋭揃いに見えてきました。毒にもなりうる薬を日常的に扱う方たちの心情は、計り知れません……。

植物からの薬効成分の「新発見」はありうる? 分類学者に訊いてみた。

ここまで多くの薬用植物を見てきましたが、植物についてプロフェッショナルな教授とお話しする機会を得たからには、素人としてロマンを感じてしまう一つの「問」をぶつけない訳にはいきません。
それは、「現在は薬用と考えられていない植物から、薬効成分が発見される可能性」のこと。
まだ薬用ではない植物の中にも、未知の薬効を持つものも存在するのでしょうか? その辺りを教授に訊いてみると。

教授:「えーと、どうでしょうか。それはまぁ、なかなか難しいと思います」

あれれ。思ったより渋い反応。

教授:「ただ、今の時代は微量でも入っていれば、それの構造式で化学成分を人工的に同定して、それを殖やすっていうか、その成分を使うっていうやり方ができるので、いろいろな薬剤の先生がそういうことを試験しているみたいです。そうでないと、何トン取った中で使える成分がこれっぽっちということになってしまう」

なるほど! 人体に作用する薬効成分だけを取り出して、化学的に殖やしてしまうということのよう。思いがけずクローンじみた話になってしまいました。

薪場:「そもそも現在、全植物のうち、薬に使われてるものってどれくらいの比率であるものなんですか?」

教授:「いやぁ〜、全然わかりません(笑)」

薪場:「え! そこ『分からない』んですか?」

教授:「薬といっても、『これを飲めば、これに効く』って分かっているのはほんのちょっとで、特に漢方はそうですよね。分かんなくても、三千年とか六千年とかの体験にもとづく結果で、この薬飲んだらこういう症状にいいっていう作用関係で使っているわけだから」

楽しそうに話す教授ですが、かなりの爆弾発言が飛び出した気がします。
高山先生、薬剤師として今の言葉をどう受け止めてるんだろう……。
私たちの病気が早く治るのも、三千年・六千年の実験の結果。
幾多の屍を超えて、健康に生きられる現在があるといっても過言ではないんですね……。

とりあえず一般人の僕は、もうちょっと病気から身を守るよう気を遣おうと思いました。
「風邪引いたらとりあえず薬飲んどけば治るし、大丈夫でしょ」という発想でホイホイと薬のお世話になったのでは、先人に申し訳が立たないですもんね。

薬剤師と分類学者が、取材を振り返って思うこと。

高山先生:「モルヒネの原料のケシって見たことありますか?」

教授:「ヨーロッパの植物園で見たことがあります」

薪場:「ごめんなさい。お話に花が咲いているところ恐縮なんですが、そろそろお時間です」

取材が終わらなくなりそうだったので、慌ててストップをかけたところで取材は締めくくりへ。
お二人に、取材の感想と、まだ小石川植物園を訪れたことのない薬剤師さんへのメッセージを求めたところ

高山先生:「マオウとか、トリカブトとか、『よく目にするもの』がすごい身近だなって思いました」

薪場:「トリカブトって『よく目にするもの』なんですか」

高山先生:「『あ! この薬!』って思います。漢方もいろいろあるんですが、名前の最後に『湯』と付く葛根湯みたいなものと、『散』と付く抑肝散みたいなものがあるんですが、『湯』と付くものはお湯に溶かして飲んだほうが効果があると実習の先生が仰っていました」

薪場:「またスゴイ豆知識が出てきた。薬剤師さんって、みんなそんなに漢方に詳しいんですか」

教授:「昔は薬学部の設置基準として、薬用植物園を持っていることが義務付けられていたんです。ちょっと前から、そういうことに使える植物園があれば、たぶん自分のところで持ってなくてもいいってことになった。少し残念なんですけど」

高山先生:「例えば大学で、薬用植物をスケッチする授業があって。その週その週で薬用植物を指定されて、大学内の植物園でスケッチする。テストに出ます」

なんと、薬剤師のタマゴはみんな、大学の持つ薬用植物園に通い詰めるんだそうです。
最近は冗談めかして使われがちな「ここテストに出るぞ」ですが、今日聞いた話は薬剤師の皆さんにとってガチで出るやつだった……。
そりゃ我々にとって知らない植物、知らないエピソードを知っていて当然で、トリカブトも身近なわけですよね。

高山先生:「薬剤師は日々勉強していかないといけないので、実物を見て印象付けたほうが勉強になると思います」

これから薬剤師を目指される方に向けて、有益なアドバイスをくださった高山先生。
最後に教授にコメントを求めてみると。

教授:「たとえばゴカっていう薬用植物の話をしましたけれど、『この植物から採られているのか』っていう親しみがわくこともあると思います。生きている緑色のものから力をもらうという感じもあると思っていて、本当に薬として役立つかどうかわからないハーブなんかもそう。親しみを持つことで、『じゃあ、五加皮酒でも飲んで元気出すか』っていう感じになるんじゃないですかね」

えーと、すみません先生。多分この植物園に来て、そういう気持ちになる人は少ないと思います。でも気持ちはとてもよく伝わりました!

最後に学者としての切れ味を見せた教授でしたが、表情は晴れやか。
「普段は、じかに薬学生や薬剤師を案内することはない」ということですが、日ごろ漢方を扱う薬剤師を相手に知見を披露したことで、何かしら心の動くところがあったのかもしれませんね。

邑田教授、高山先生、本日は本当にありがとうございました。
雷雨の予報、外れて本当に良かったですね!

(文・薪場 竜)

小石川植物園 案内人プロフィール
邑田 仁(むらた じん)。小石川植物園に40年間勤めた分類学者で、第二十代・二十二代園長を歴任。研究テーマは「維管束植物の系統分類、日華植物区系を中心とする植物相の解析」。
薬剤師プロフィール
薬学部を卒業し、実務について2年目の若手薬剤師(病院勤務)。
学生時代の実習では抽選になるほどの人気だった小石川植物園を訪れ、ちょっとテンション高め。

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