薬剤師キャリアとしての新しい薬局のカタチ「敷地内薬局」とは? アイン薬局 東大店・アイン薬局 両国店の薬剤師にインタビュー – 薬プレッソ

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薬剤師キャリアとしての新しい薬局のカタチ「敷地内薬局」とは? アイン薬局 東大店・アイン薬局 両国店の薬剤師にインタビュー

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2016年10月の規制緩和により、医療機関の敷地内に保険薬局「敷地内薬局(門内薬局)」を開設することが可能になりました。薬剤師の職場として考えた場合、「敷地内薬局」には、どのような特徴があるのでしょうか? 

今回は、2019年にオープンした「アイン薬局 東大店」「アイン薬局 両国店」の2店舗を訪れ、そこで働く薬剤師にインタビューをしてきました。

※ 本取材は新型コロナウイルスによる緊急事態宣言以前に行われました。

そもそも「敷地内薬局」とは?どうして許可されたの?

敷地内薬局は、2016年10月の規制緩和により許可された新しい薬局の形です。それまで「病院に一番近い薬局」と言えば「門前薬局」と呼ばれる薬局でした。「保険薬局と医療機関との間に公道を挟む」というルールが決められていたからです。

例えば、従来どおりのルールのもとでは、病院と薬局が同じ敷地内にあったとしてもフェンス等で遮られているため、車いすを利用している患者さまや高齢者の方は、一旦公道に出る必要があり、回り道をするような状況となっていました。

そのような不便を解消するため、政府の規制改革推進会議で議論された結果、2016年10月から病院の敷地内に薬局を開設することが許可されました。これが敷地内薬局です。

敷地内薬局―アイン薬局 東大店・アイン薬局 両国店について

今回訪れたのは、アイングループが運営するアイン薬局 東大店とアイン薬局 両国店です。いずれも2019年にオープンした敷地内薬局です。

アイン薬局 東大店

アイン薬局 東大店は2019年4月、東京大学医学部附属病院の敷地内薬局として開局しました。病院の正面玄関から道路を挟んだ向かいの建物にあります。

歴史的な建造物をいかしつつも、10カ所のカウンターやプライバシーにより配慮した個別相談ブース、無菌調剤室の設備等を完備しています。

アイン薬局 両国店

アイン薬局 両国店は、2019年3月に都内初となる敷地内薬局として開局した店舗です。病院の正面玄関を右に出るとすぐ薬局の出入り口があり、患者さまの移動の負担は最小限で抑えられます。

敷地内薬局の開設が進んでいる背景、敷地内薬局の特徴とは?

ここからは実際に、敷地内薬局で勤務している薬剤師の方からお話を伺いました。
アイン薬局 東大店でお話を伺ったのは、オープン当時から勤務しているという薬剤師の新美さんです。

アイン薬局 両国店では、薬局長の鈴木さん(写真右)と薬剤師の石井さん(写真左)にお話を伺いました。

―Q.アイン薬局を運営するアイングループでは、敷地内薬局が順次開設されているようですが、その背景にはどのようなことがあるのでしょうか?

患者さまの「豊かな生活」に最大限貢献できる場所

患者さまにとっては、まず移動距離が減って便利になります。薬局にとっても、多くの患者さまにご利用いただけると同時に、病院とより距離が近いため連携がしやすく、その分患者さまの薬物治療にしっかりと寄り添うことができます。

地域との連携が取りやすい

敷地内薬局であれば、薬を一元的に管理できるということが大きいのではないでしょうか。超高齢社会の中で、特薬(特定薬剤=ハイリスク薬)を服用している方、生活習慣病の増加にともなって薬を数多く飲まれている方や、合併症を患っている方が増えています。そのような中で、退院後にご自宅や介護施設に戻られた際の地元の薬局と情報共有することで、シームレスな薬物治療を実現することもできると考えています。

―Q.地域との連携が取りやすいのは意外ですね。敷地内薬局だと門前薬局の役割をより特化させたというイメージがありましたが、かかりつけ薬局のような役割も果たしているのですか?

もちろんです。敷地内薬局もかかりつけ薬局としての機能は十分に持っていますし、かかりつけの要件を見ても、より機能を生かせるチャンスが多いのではないでしょうか。ですので、かかりつけから高度医療まで幅広い機能を持つ薬局として、地域に根付いた貢献ができると考えています。

また敷地内ということで病院、医師の方々と連携を取りやすく、医師の治療方針がわかっていることで、より効果の出やすい服薬指導ができます。

患者さまからの声

―Q.敷地内薬局ができたことで患者さまからはどのような声をいただくことが多いですか?

近くてはやい

やはり足腰に不安のある患者さまも多いため「(病院から)近くてすごく良かった」というお声を多くいただきます。また、待ち時間対策にも取り組んでいるため、抗がん剤の点滴をされている方等、「待ち時間が短くて良かった」というお声をいただくことも。

アイン薬局 東大店の特徴・取り組み

勉強会等を通じた知識・情報の共有

―Q.アイン薬局 東大店では、病院と合同での勉強会をされていると伺っていますが、実際どのようなことをされているのでしょうか?

病院医師の主催のもと、さまざまなテーマに沿った勉強会に参加させていただいています。医師の方々と一緒に学べることはとても刺激になりますし、治療方針がよく理解でき、全体の流れを把握した上での服薬指導ができます。疾患についての知識を増やすチャンスにもなりますね。

勉強会は医師が主催する他にも、隣接する薬局と合同のものもあり、現在の治療の「スタンダード」を知ることができます。私も参加できるものはすべて参加したいと考えておりますし、参加できなかったとしても、参加した薬剤師が局内で情報を共有することで、スタッフ全員が日々の業務に生かせるよう、取り組んでいます。

―Q.情報の共有についてはどのようにされているのでしょうか?

得られた資料を共有したり、共有用に資料を作成したり、ミーティングを行う等しています。

患者さまの情報についても、トレーシングレポート(服薬指導情報提供書)を用いて、服薬指導時に気になったことや次回処方時に改善できそうな点を履歴に残し、医師にフィードバックしやすい環境があります。例えば、患者さまが医師に伝えられていなかったことをヒアリングできれば、それらもトレーシングレポートとして提出し、改善策を医師に提案することも。

—その他にもアイン薬局 東大店の特徴的な取り組みはありますか?

さまざまな取り組みがありますが、特に吸入指導をする「呼吸器の指導評価表」も特徴のひとつです。吸入指導は、医師の診察時のみで時間を確保することが難しい部分。正しい使い方ができているか、という確認を薬局でも行っています。その際に活用している「呼吸器の指導評価表」は病院との連携のためのツールですね。病院と薬局とで同じものを使いながら、患者さまの情報を共有しています。

例えば「ずっと使っているけれど、あまり治療効果が出ていないような気がする」「こういう部分が苦手」という時も、このツールがあることで、吸入指導での問題点を共有することができます。

特に、大学病院は診療の数が多く、指導に十分な時間が取れないことも少なくありません。そのような時には薬局でしっかり時間を設けて、という風に補い合うようにしています。

待ち時間対策

―Q.「待ち時間が少なくて良かった」というお声をいただくとのことですが、外来患者数が多い中で、アイン薬局 東大店での待ち時間の対策としてはどのようなことをされていますか?

病院でも待ち、薬局に来ても待つ、ですと、患者さまの負担が大きいですよね。ですから少しでも時間を短縮できるよう、薬剤師、患者さまの動線に工夫をしています。特に私たちの薬局は、待合スペースが2つあるので、その特徴を生かして、日々試行錯誤しながら工夫を重ねています。

また、調剤室内の薬の配置も工夫をしています。よく出る薬剤を手前にまとめて置いたり、薬をあらかじめ半分にしておいたり。準備できるものがあれば先に準備をしておきます。
▲ 半分の状態で処方できるよう準備されたダイアモックス錠。「今はこうした工夫をおこなっている薬局は多いです」と新美さん。
また、アイン薬局ではお薬手帳アプリも活用しています。処方箋の写真を撮り、アプリを利用して画像を薬局に事前に送信していただければ、患者さまが病院でのお会計を済ませている間や、移動、お買い物等その他の用事を行っている時間に薬の準備が進むので、患者さまの待ち時間の負担が減ります。

他にも、処方箋受付時にお渡しする受付番号券にQRコードが付いており、アプリ内のカメラで読み込んでいただければ薬ができあがっているかの確認ができます。
▲ 「アインお薬手帳」はお薬できあがりのお知らせ機能等が充実(App Store, Google Play等で入手可)。患者さまは薬の準備ができているかを外出先でも確認することができるため、アイン薬局 東大店では待ち時間の間に隣接するカフェや大学の食堂等で過ごされる方も多い。

アイン薬局 両国店の特色・取り組み

地域との幅広い連携

―Q.アイン薬局 両国店は都内初の敷地内薬局ということですが、こちらで実施している取り組みや特徴等を教えてください。

「都内初の敷地内薬局」という点では、ロールモデルになるというプレッシャーがありました。薬局は今、対物から対人業務への移行期間といわれており、どれだけ患者さまに寄り添ったサポートができるか、スタッフ全員が常に意識しているところです。

その時にポイントになるのが、各方面との連携です。医療機関や医師との連携。また、在宅医療であれば、訪問医はもちろんのことケアマネジャーや訪問看護ステーションとの連携、福祉関連施設との連携等。とにかく、幅広い連携が必要になるということです。

また、地域の薬剤師会と連携とし、勉強会での情報のキャッチアップに努める取り組みの実施や、災害医療薬局への登録や地域の禁煙サポート等にも取り組んでいます。

―Q.敷地内薬局というと、病院との連携が主になるようなイメージがありますが、それ以外にもさまざまな連携をされているのですね。

そうですね、病院との連携のみにならないよう、ニーズを見極めて多方面にアンテナを張っています。

患者さまは、症状が安定していけば大きな病院から地元の病院やクリニックへと移ります。私たちは、変化する患者さまの病状にそって責任を持ってサポートしていく必要があると思います。地域の薬局や福祉施設との連携をすることで引き継ぎがスムーズになります。

大きな医療機関に近い「敷地内薬局」として、地域の薬局のプラットフォーム的な機能を担っていきたいと考えています。

病院との情報共有や多職種での関係構築

―Q.情報共有ではどのような変化がありましたか。

病院で行っている化学療法の一覧について、情報共有していただくこともあります。これまでは、処方箋のみで得られる情報から判断するしかありませんでしたが、情報共有により病院でどのような治療を受けてきたのかわかり、気を付けるべき副作用等の判断もしやすくなりました。

他にも、栄養課の方の勉強会に参加させていただくこともあります。

待ち時間対策

―Q.待ち時間対策はどのようなことをされているのでしょうか?

やはり患者さまの待ち時間が長くなってしまうのは避けたいです。せっかく近くに薬局があるのに待ち時間が長ければ、意味がありません。ですから、スムーズな薬の受け渡しは「敷地内薬局」がクリアしなければいけない課題です。できる限り無駄なく、簡略化することを目指しています。

取り組みのひとつとしては、一日の平均待ち時間と、ピーク時の待ち時間を計測し、その差を数値化し分析することです。現在、同店の平均待ち時間は11分。ピーク待ち時間は13分となっています。

―Q. 2分というとあまり違いがないように思いますが。

そうかもしれませんが、差分の「2分」というのはどこか滞留しているということです。ひとりの患者さまに対してわずか2分の違いであっても、50人なら100分、100人なら200分の時間になります。それだけの時間があれば、他の業務も可能になります。

ですから、滞留をどこまで突き詰めることができるか、というのがポイントで、ピーク待ち時間と平均待ち時間をイコールにするのが理想だと考えています。
▲ 両国店では、調剤の所要時間によって患者さまごとに「かご」の色分けを行っている。これに基づいて薬剤師が行動することで、平均待ち時間の削減に役立てている。
▲ かご分けの工夫の背景には、平均待ち時間を最短にするための業務の組み立て方に関する理論がある。鈴木薬局長はこうした情報を局内に周知し、実践に落とし込んでいる。

敷地内薬局で働こうと思った理由は?

―Q.ご自身が「敷地内薬局」で働くことになった経緯について教えてください。

以前は地域の総合病院の門前薬局で勤務していましたが、大学病院の敷地内ということでいろいろと勉強ができると考えて、自分で希望を出しての異動となりました。
私は自分で希望を出したというよりも、立ち上げ時に本部から声をかけていただき、異動してきました。実のところ、まさか私に声がかかるとは、と思っていました。
私はがん治療に関する勉強をしたかったのですが、以前勤務の薬局ではあまり深く抗がん剤を扱う機会がありませんでした。外来がん治療認定薬剤師という資格も目指していたものの、必要な10症例を集めることは難しい。そういったタイミングで敷地内薬局の話があり、チャンスと思い希望しました。

働く中で感じる、敷地内薬局と門前薬局との違い

―Q.実際に働いてみて、以前勤務していた薬局と違うなと感じるのはどのようなところでしょうか?

医師主催の勉強会に参加することによって、治療方針や処方の意図を理解することができるようになったことです。以前もメーカー主催の勉強会がありましたが、医師の考えを知ることができることで、服薬指導での治療効果を上げることにもつながっていきます。

また、臓器移植や抗がん剤等高度薬学管理が必要な患者さまも多く、日々勉強できる環境だと感じています。
以前いた耳鼻科の門前薬局では、すぐに薬が欲しいという場合が多く、なかなかゆっくりと患者さまとお話をすることができませんでした。

今はさまざまな診療科を扱い、高齢の患者さまも多いことから、症状をじっくり聞いた上で服薬指導をすることができ、薬剤師としての必要性ややりがいを感じる機会が多くなりました。

抗がん剤等、以前はほとんど取り扱いのなかった薬に触れることも増えてきたので、局内で勉強会を開いて知識を共有する等、薬剤師同士の情報共有もより重要になってきました。あらゆるコミュニケーションが濃厚になったと感じます。
「敷地内薬局」はまだ取り組みがはじまったばかりで情報が少なく、アプローチも手探りではありますが、立地を生かして多方面と連携を取る、取れるようにすること、地域のプラットフォームとなる薬局になることがポイントなのではと思っています。

「敷地内薬局」の都内1号店ということもあり、周りの方々からも注目いただいている中で、何ができるか。気を張っている部分もありますが、クリアな取り組みを志していきたいです。

薬剤師のキャリアとしての敷地内薬局

―Q.薬剤師のキャリアとして考えた場合、敷地内薬局は職場としてどのようなことのできる、あるいはどのような魅力のある環境だと思いますか?

高度薬学知識を身に付けられるという点では、敷地内薬局のやりがいは別格だと思います。より勉強できる環境と言えますね。

働く中で知識を増やしていきたい人、患者さまのことをしっかり考えられるモチベーションのある人であれば、敷地内薬局という職場は良い環境と言えるのではないかと思います。

また、アイングループでは、育児や介護等を理由に時短で働いているスタッフも多いので、そういったサポート面でも安心です。

私個人としてはより専門性を高めていきたいと思っていて、現状は漢方や小児、不妊治療等に興味をもっています。知識を身に付け専門性を磨くことで、より患者さまへの服薬指導の効果を上げられるようになっていきたいと考えています。
私たち薬剤師は、「勉強が必要」と思わされる機会がたくさんあります。

特定の科の門前薬局にいると必要な知識が限られてくるので、さまざまな薬に触れられるのは、総合的な科を扱う総合病院の「敷地内薬局」の魅力のひとつではないでしょうか。

一方で、敷地内薬局も地域の一薬局です。あまりハードルを上げて考える必要もないのではと思っています。
薬剤師は今後、薬に関する高い専門性と対人業務が求められている時代です。そして知識は、アウトプットをする機会がないと薄れてしまいます。

敷地内薬局で触れることができる高度な医療は、幅広い知識に加えて、専門性を身に付けるチャンスのある場です。

私も、これまで勤務してきた門前薬局ではほとんど触れることがなかったがん治療の経験を敷地内薬局で積み上げ、今後のキャリアにつなげていきたいと考えています。

※ 本取材は新型コロナウイルスによる緊急事態宣言以前に行われました。

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薬プレッソ編集部

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