地域密着保険薬局の取り組み フローラ薬局 地域密着の健康サポート活動を20年推進 新制度「かかりつけ薬剤師」のモデルに【月刊MD】 – 薬プレッソ

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地域密着保険薬局の取り組み フローラ薬局 地域密着の健康サポート活動を20年推進 新制度「かかりつけ薬剤師」のモデルに【月刊MD】

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茨城県水戸市と笠間市に3店舗の保険薬局を展開するフローラ薬局(篠原久仁子代表、薬学博士)は、地域密着の健康サポート活動の実績で全国に知られるコミュニティファーマシー※のひとつ。この4月の診療報酬改定にあたり制度化された「かかりつけ薬剤師」は同薬局から8名誕生した。自治体からも「かかりつけ薬剤師」のモデルとして期待されている。

※処方せん調剤や医薬品の販売を主たる目的とする営業展開ばかりではなく健康や病気の予防に関する専門  知識を発信し、地域の医療機関などと密接に連携することで地域医療の質の向上に貢献する薬局の総称

▼目次

かかりつけ薬剤師とは?

本来の薬剤師の機能と職責を明文化、患者メリットを実感させられるかが鍵

 フローラ薬局に勤務する薬剤師は現在3店舗で22名。そのうち8名が、新制度発足に伴い「かかりつけ薬剤師」の要件を満たし、認定されることになった。「かかりつけ薬剤師」とは何か。どんな職能が求められているのか。簡単におさらいしておこう。

 図表1は「かかりつけ薬剤師」に求められる職能をまとめたものである。「かかりつけ薬剤師」の概念自体は新しいものではなく、むしろ本来の薬剤師の在り方を示すものとして、業界では認識されてきたが、前回2014年の診療報酬改定時に努力義務だったものが、今回2016年4月の同改定時は機能が明文化された形となった。診療報酬とは国で定める病院、診療所、薬局などで支払う料金体系のことである。

 今回の診療報酬改定の内容について、保険調剤にかかわる4項目抜き出してみよう。

  1. 地域包括ケアシステムの推進と医療機能分化・強化、連携。薬物療法の有効性・安全性確保のため、服薬情報の一元的な把握とそれに基づく薬学的管理がおこなわれるよう「かかりつけ薬剤師・薬局」の機能を評価
  2. 患者にとって安心・安全で納得できる効率的かつ効果的で質の高い医療を実現する視点
  3. かかりつけ薬剤師・薬局による薬学管理や在宅医療等へ貢献度による評価・適正化
  4. 残薬や重複投与、不適切な多剤投与・長期投与を減らすための取組み

 国庫の医療負担高騰を受け、診療報酬全体では0.84%の引き下げを実施、中でも薬価は1.22%の引き下げとなったが、一部の薬価について大幅に引き下げられるなど、薬価に対する「低減」はますます鮮明の度合いを増した。

 これと併せて薬局における調剤基本料が細分化されることになり、服薬情報の一元的な把握の視点により、お薬手帳を継続して持参した患者へは薬局の機能・実績に応じて薬剤服用歴管理料が下げられるようになった。

 これまではお薬手帳を持ってきた場合、薬局にとっては管理料をとれる仕組み(患者は負担増)だったが、お薬手帳によって残薬・重複投与のリスクが低減されることから管理料を下げる(患者負担減)という方針に180度転換したことは特筆される。

 2012年度は、薬剤師が医師に照会し薬を減らすなどして約29億円の医療費が抑制できたことが判明、これを受けて今回の改定では、処方せんに「残薬の対応についての記載欄」が設けられた。「保険医療機関への情報提供」にチェックが入っていれば薬局から病院への情報共有・連携により、残薬の調節が可能となる。

 フローラ薬局では以前より、近隣の医療機関と連携し残薬・医療費削減の取組みを行ってきた。残薬や重複投与などを減らすための取組みに対する評価は今回の改定により薬局にて残薬調節などをした場合、調剤報酬で30点(1割負担で30円、3割負担で90円)の加算が付くようになったのである。

 そして今回改定の最大のポイントが「かかりつけ薬剤師指導料」の新設である。

 「かかりつけ薬剤師」として認定されるためには、下記の要件3つすべてを満たしている必要がある。

  1. 少なくとも3年以上の薬局経験があること
  2. 研修認定薬剤師などの研修認定を取得していること
  3. 地域活動の取組みに参画していること

「かかりつけ薬剤師」は患者に指名してもらってはじめて「かかりつけ薬剤師」となり、差額で32点(1割負担で30円、3割負担で100円)高くなってしまうが、図表1で示した内容の他に以下のようなメリットを患者は享受できる。

  1. 毎回、既往や併用薬・治療経過など患者の状態をよく理解した薬剤師が対応することでより安心・確実な薬の管理ができる
  2. 薬剤師はすべての薬を把握しているので、入院時の薬の情報や退院時の薬中止・減量などの連絡窓口になる
  3. さらにフローラ薬局独自のかかりつけのメリットとして7人いる栄養士に予防改善の栄養相談ができ、健康講座の案内や、管理栄養士による低カロリー食品などのレシピや健康情報がもらえる。健康講座では低カロリー食の試食体験や栄養講義が受けられる

 図表2は、今回の改定で示された調剤報酬点数の調剤基本料部分の一覧である。フローラ薬局の場合、調剤基本料に関しては、調剤基本料1の41点、基準調剤加算(かかりつけ)32点、後発医薬品調剤体制加算2(75%以上)の22点が加わり、処方せん1枚当りでは「95点」がベースとなる。

フローラ薬局の取り組み

「禁煙」も「食生活改善」もより物理的・心理的ハードルをどう下げるか

 では、フローラ薬局では「かかりつけ薬剤師」「かかりつけ薬局」としてどのような活動を行っているのだろうか。先日同薬局では「5月5日コミュニティファーマシーの日」の地域イベントが行われた。これは普段同薬局が行なっているさまざまな活動の内容を、より地域の人たちに知ってもらうために開催されるものである。その一部をご紹介しよう。

 フローラ薬局の大きな特徴は、ハーブガーデンを隣接していることだ。これは近代医学発祥の地、長崎にあるシーボルトの鳴滝塾が病院と和洋の薬草園を併設していたことに倣ったもの。同じく近代医薬分業発祥の地とされるドイツでは薬草魔女と呼ばれる修道士が、修道院に併設するハーブ園で人々の病を救ったという。

 フローラ薬局では、ハーブの効能と活用を冊子にして実際にフレッシュのハーブを摘んでもらいハーブティ、ジャムづくり、アロマスプレーづくりなどを実施している。

 取材日は、ジャーマンカモミール(和名かみつれ)の最盛期。リラックス、風邪対策、また保湿にもよいとされる。先端部分にアズレンの有効成分があり「うがい薬」に用いられることは有名だ。

 「ハーブティーは、カロリー、糖分がゼロ。『香り』で味わいます。鎮静の効果があり、先日熊本地震の支援で被災地に伺ってお配りしたのですが、とても喜ばれました」(篠原久仁子氏)

 またハーブを使ったイベントは同薬局が自治体と連携して進める禁煙プログラムとも連動する。長年の喫煙常習者の父親は自治体や医療機関が主催するなかなか一般的な「禁煙プログラム」と称するものに重い腰が上がらない。そもそも禁煙してほしい人ほど、イベントの「禁煙ブース」には近づかない。

しかし、妻や娘がストレス・禁煙対策アロマスプレー教室に参加したいとなれば話は変わってくる。参加条件は「禁煙希望者の相談・紹介」なので、家族で父親を巻き込むのである。通り一辺のプログラムを実施するのではなく、フローラ薬局ではこのようにどうすれば「気軽に」取り組めるかということに心を砕き、実績を挙げている。

高齢者の食生活改善から「壮年期」の予防に向けた改善プログラム始動

フローラ薬局のもうひとつの大きな地域活動が、ハーブを使った薬膳料理による食生活改善の提案である。同薬局では管理栄養士が常駐し、自治体や栄養士会、保健センター会などの依頼に応じてさまざまな食生活改善プログラムを実施している。茨城県は海も山もあり食材が豊富に揃う一方で、塩分ならびに糖分摂取も多く、とくに高血圧、糖尿病患者に対する食生活改善ニーズが高くなっている。取材したコミュニティファーマシーのイベントでは、減塩、低糖・低カロリー料理が振る舞われた。一般家庭で塩分2グラムのカレーをつくることは難しいため、ときにはレトルトなどを併用することも推奨する。「減塩食指導はこれまで塩分をどれだけなくすかというまさしくマイナス思考で行われてきたのですが、そうではなく、偏りをなくす、バランスをとるということが大事。たとえば塩分をなくす分、しょうがの辛みを効かせる、あるいは酸味を足す、ハーブで香り付けするなどプラス思考でどれだけおいしくいただけるかという発想が大切なんです」(篠原氏)

また先の熊本地震では、避難所生活を余儀なくされた糖尿病患者が非常食の生活で糖分コントロールが乱れ、体調を崩してしまう例が多く見受けられたという。避難所では生野菜も不足し、便秘は大敵だ。寒天はゼロカロリーで食物繊維が豊富、空腹も満たしてくれる点で重宝する。最近は水を使わずレンジで簡単に調理できるアイテムが増えており、篠原氏によれば、避難所の状況を聞いて、水道、電気、ガスの何が一番使えて、不足しているものは何かを把握、そのうえで一番栄養的に欠乏するものを補うための物資を揃えることが大切だという。

東日本大震災以降、フローラ薬局では、薬の備蓄体制はもちろんのこと、太陽光による自家発電を導入し、ライフラインの確保、長期避難に備えた食生活サポート体制も構築している。

同薬局では、食生活の改善は高齢者よりもむしろ働き盛りの壮年期男性に向けて行うことが予防上大切と考え、笠間市の依頼を受けて「朝活」ならぬ「夜活」を実施していくという。

これは、昼間は働いてなかなか時間がとれない30~50代の男性なども対象に19時から20時30分まで、地元の公民館で食生活改善のためのセミナーを行うというものだ。これもまずは参加する人の心理的、物理的ハードルを下げ参加者を増やしていくのが目的。今後の成果が期待される。

今後の薬剤師はどうあるべきか?

「かかりつけ薬剤師」制度が発足したことで、今後薬剤師にはどのような資質と教育が求められていくのだろうか。

「かかりつけ薬剤師」は冒頭に示したとおり、調剤基本料が加算される。フローラ薬局では処方せん1枚当り95点がベースとなる。金額に直せば小さいが、それでもこれは一方で、患者の窓口負担が増すということだ。

 お金をかける以上、患者の選択の目は厳しくなっていくだろう。

 われわれが外食をする際でも、一定のサービスレベルが保証されたファミリーレストランを利用する場合もあれば、素材や調理方法のうんちくなど店主との会話を楽しみながら料理をいただく個人店舗を利用することもあるだろう。年齢的なライフスタイルの変化、あるいはTPOSで使い分けていく。これが生活の豊かさである。

 篠原久仁子氏によれば、薬局もこのような人々のライフスタイルの変化によって使い分けられていくのではないかという。自身が退院し、自宅で療養することになったとき、どのような薬剤師を選択するだろうか。自分の生活スタイル、食事などの嗜好を理解してくれて、薬や食事の管理を行なってくれる薬剤師を選ぶだろう。

 今回の「かかりつけ薬剤師」認定では、「地域貢献」と「24時間対応」の2つのハードルがとくに高かったという。

 「地域貢献」は自治体、地元の医療機関、医師会、薬剤師会との連携や学校薬剤師としての薬物乱用防止教育など具体的な実績が求められる。

 たとえば禁煙プログラムにしても、今後はどれだけ地域の肺がん発生率抑制に貢献したかという具体的な数字が求められるようになるだろう。その数字の把握、検証には、多くの職能を継続して巻き込まなければならない。「かかりつけ薬剤師」「かかりつけ薬局」はそういった職能連携にも参画し、実績をつくり上げていくことが求められる。

 かつてワシントン州立大学にて薬剤師職能拡大に尽力してきたドン・ダウニング教授は、町の一薬剤にすぎなかったが、地域医療の質的向上を志す医師、看護師との盟約協働を図るべく自らインフルエンザなどの注射が打てるよう大学に通い、地域医療連携チームに参画。インフルエンザ患者数の低減などの実績を上げることで薬剤師の地位を向上させていった。

「24時間対応」はその意味で、薬剤師の意識の高さが求められるものだ。在宅医療チームに参加すれば、患者、医師からの問い合わせに24時間対応しなければならないのは命を預かる医療人しては当然といえば当然である。血糖値が高いときに新たに処方された薬を飲んでいいかどうか、患者にとってはひとつの判断が大事に至ってしまうケースもある。

 ただし、24時間といってもずっと拘束されるわけではない。すぐの対応ができない場合は、当該薬局の別の薬剤師が応対する。フローラ薬局でも12名の薬剤師が当番で月3〜4回の24時間対応を担う。

「地域貢献」「24時間対応」、これらは地域密着型コミュニティファーマシーだけが実現できるものではない。とくに地域医療におけるQOLの質的向上の成果はチェーンオペレーションによるマスメリットを追求して然るべき分野だ。また多くの薬剤師をかかえるチェーン企業であれば、今後ますます増加していく在宅医療ニーズに応えていくことができるだろう。

 それぞれの特性を生かしてこそ、地域医療の質的向上は図られる。その意味でフローラ薬局のノウハウに学ぶ意義は大きい。(取材・文宮﨑文隆)

月刊マーチャンダイジングの発行元である株式会社ニュー・フォーマット研究所および関連取材先の許可を得て、転載しております。

転載元:月刊マーチャンダイジング 2016年7月号 20-23ページ
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薬プレッソ編集部

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