薬剤師の労務管理【第13回】転勤や降格の命令は絶対?薬局やドラッグストアが行使する「人事権」とは? – 薬プレッソ

薬剤師の労務管理【第13回】転勤や降格の命令は絶対?薬局やドラッグストアが行使する「人事権」とは?

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薬剤師にとって、労務管理で認められる権利を知ることは自分を守ることに繋がります。本シリーズでは、薬剤師が知っておくべき労務管理のあれこれについて、社会保険労務士の長友先生から講義形式でお伝えいたします。 今回は「人事権」についてのお話です。

薬局における「人事権」とはどのようなことを指す?

病院や薬局など、一般の会社には「人事権の行使」が認められています。「人事権」とは、採用、転勤、配置換え、役職の任命、解任など、雇用主が有する権限のことを言います。

チェーン展開しているような多店舗の薬局やドラッグストアでは転勤や配置換え、エリアマネージャーや管理薬剤師、店長など役職の任命や解任など、人事権の行使として行われます。

「人事権」の行使は法律で決められているの?

人事権は、会社の裁量で決められます。法律で定めるものではありません。

どの店舗に誰を配置するか、どの役職に誰をつけるかなど、会社の裁量で決められるのですが、引っ越しが伴う転勤となった場合、会社と従業員の間でトラブルになることがあります。

しかしながら、転勤に関しては、雇用契約書で「当社は転勤があります」と事前に周知された上で雇用契約している場合は、従業員側にはそれに応じる義務が発生します。法的な権利を持って従業員側から訴えることはできません。

「家庭の事情」が優先されるケースも

雇用主である会社や薬局、病院は人事権をかざして「どこでも自由に人を動かしていいか」というと、そうとも限りません。過去の判例では、育児や介護などの「家庭の事情」でどうしても今の住居から動けないことが認められる場合に断ることができています。

また、会社の事情などを配慮できる余地があれば、従業員側からも事情を申し出る権利はあるとされています。「他の店舗に行ってください。」と転勤を命じられたら、必ずしも認められるとは限りませんが、事情を申し出ることで考慮してもらうことができるかもしれません。

トラブルを避けるためには採用の段階から

トラブルを避けるには、採用の段階で、勤務先の条件をよく調べることです。

多店舗の薬局やドラッグストアには人事異動がつきものなので、入社する場合は転勤を覚悟してください。

ただ、最近では、多様な勤務形態を認めるということで、「勤務地限定制度」や「職務限定制度」を認めている会社が増えています。勤務地限定、転勤無しの薬局やドラッグストアがあるかもしれません。その代わりに「給与の格差」があるかもしれませんので、よく調べて就職活動を行ってください。

役職について

「役職」についても、会社の裁量で決まります。貢献度や成績によって昇進するだけでなく、降格や役職を外されることもあります。しかしながら、何でもかんでも会社や薬局の判断でやっていいというものではありません。

勤務成績ではなく明らかに恣意的なものがあれば、その決定は無効となる可能性がありますので、異議申し立てをして会社と十分に話し合ってください。

今回のポイント

・人事権とは、採用、転勤、配置換えなど雇用主が有する権限。会社の裁量で決められる。
・転勤を断れるかどうかは雇用契約書による。「転勤がある」と示唆されていても、育児や介護など「家庭の事情」が優先されて断ることができることもある。
・「勤務地限定制度」を認めている会社では、給与の格差があるかもしれない。
・「降格」が明らかに恣意的なものであれば、無効となる可能性がある。

長友社会保険労務士事務所 代表
長友秀樹(ながとも ひでき)
一般企業に就職後、MR、社会保険労務士(社労士)資格を取得。人事コンサルタントとしても活動経験を持つ。MR・人事コンサルタントとしての知見を生かして、自身の事務所を独立開業。医療業界に係わる人事・労務の諸問題の解決を中心に扱っている。
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薬プレッソ編集部

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