制度解説 厚生労働省が調剤薬局、薬剤師の今後のあり方を明示─対物業務から対人業務への転換が求められる【月刊MD】 – 薬プレッソ

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制度解説 厚生労働省が調剤薬局、薬剤師の今後のあり方を明示─対物業務から対人業務への転換が求められる【月刊MD】

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国公債など日本の「国の借金」は2015年度末で1,049兆円、国民1人当り826万円を
負っている計算だ。一方で現在約800万人いる団塊世代は2025年に全員が後期高齢期
(75歳以上)に入る。国は財政と高齢者福祉を同時に乗り切るという大きな課題に直面している。
この流れを受け、調剤薬局、薬剤師にも生活者の健康を守る大きな役割が期待され、
制度的にも明確な進路が示されている。

 

「地域包括ケアシステム」と「患者のための薬局ビジョン」

毎年1兆円規模で膨張する医療費 抜本的に抑制する仕組みが必要

これまでの高齢者医療は急性期(たとえば脳梗塞の発症時など)を終え、慢性機(たとえば後遺症が残った状態)に入っても適切な介護態勢がとれず、病院に1年や2年など長期入院するケースが多かった。

また、手厚い看護態勢(看護師7人で1人を看護する7対1看護など)で長期入院患者を受入、より多くの診療報酬をあげるという「収益モデル」を築いてきた医療機関も少なくなかった。

このような状況では、第一に生活の場ではない病院に長期入院(社会的入院)することで患者のQOL(クオリティ・オブ・ライフ=生活の質)が著しく低下する。第二に患者およびその家族の福祉が向上しないのに医療コストだけが過剰に膨れあがるという問題があった。

2025年には約800万人いる団塊の世代(1947~1949年生まれ)全員が後期高齢期(75歳以上)に入る。上記のような患者およびその家族の福祉より、経済的動機が優先されているような高齢者医療では多くの人間のQOLが低下し、社会保障コストが危機的に増大することも予想される。

現在の医療費は約40兆円(平成27年度)、うち調剤(薬剤料+技術料)で約7兆円。毎年1兆円規模で拡大し、財務省の予測では2025年の医療費は54兆円、これに年金、介護、その他を足した社会補償費は148.9兆円にのぼる。税と社会保障の一体化政策で、これを消費税で賄うとしたら税率20%でも追いつかないというのが専門家の間では定説である。20%の消費税は日々の買い物へも影響を与えるだろう。医療や薬局、薬剤師の問題は経済問題の一環でもある。

地域包括ケアシステムで超高齢時代を乗り切る

長期入院、過剰看護態勢といった高齢者医療を改めて、急性期を過ぎたら退院し、介護やリハビリが必要なら自宅もしくは施設でサービスを受ける。必要な医療サービスはかかりつけ医から受ける。さらに、重篤な病気や認知症にならないよう普段から健康づくり、認知症予防に励む。

このような一連の医療、介護、住まい(施設を含む)、生活支援(見守りや給食など)、介護・認知症予防(健康維持活動)を中学校の学区の程度の広さをもつ「地域」で一体的に、包括的に(全部ひっくるめて)行おうというのが「地域包括ケアシステム」である(図表1)。

プレイヤーは、地域にはつかかりつけ医(在宅医)、在宅医療を支える訪問介護師、介護を担う介護福祉士、ケアマネージャー、ヘルパー、そして、薬剤管理や健康サポートを受け持つ薬局(かかりつけ薬局)、薬剤師(かかりつけ薬剤師)などである。

今度の薬局、薬剤師のあり方を示した「薬局ビジョン」

平成27(2015)年10月23日、厚生労働省から「患者のための薬局ビジョン」(薬局ビジョン)という今後の薬局、薬剤師に関する策定書が示された。サブタイトルには「『門前』から『かかりつけ』、そして「地域」へ」とある。

この中で厚労省は、国民の病気や健康サポートに貢献する「健康サポート薬局」の必要性を説いている。加えて、複数の医療機関から処方せんを受けている場合は同じ薬剤師が服薬指導を一元的に管理すること。さらに、継続的に同じ薬局、薬剤師から服薬指導を受けることが望ましいと論じている。

このような薬局、薬剤師を「かかりつけ薬局」「かかりつけ薬剤師」と命名し、今後のあるべき薬局、薬剤師であるというのが薬局ビジョンの骨子である。

かかりつけ薬剤師・薬局が持つべき3つの機能

「薬局ビジョン」では、かかりつけ薬剤師・薬局が持つべき3つの機能として以下の条件を挙げている。

(1)服薬情報の一元的・継続的把握

患者がかかっているすべての医療機関や服薬を一元的・継続的に把握し、薬学的管理、指導を実施。お薬手帳の一冊化、集約化を実施。

(2)24時間対応・在宅対応

開局時間以外でも、相談に応じるために「電話相談実施」。夜間休日も必要な場合は調剤実施。在宅対応にも積極的に関与。

(3)医療機関との連携

疑義照会(疑問点確認)や処方提案を行う。処方医へのフィードバックや残薬管理・服薬指導を行う。医療機関にかかったほうがよいとおもったら受診勧奨する。

患者のニーズに対応して充実・強化すべき2つの機能

薬局ビジョンでは、かかりつけ薬局、かかりつけ薬剤師のほかにも「薬局が患者のニーズに応じて充実、強化させるべき2つの機能」として、以下の項目を挙げている。

(1)健康サポート機能

医療機関や訪問看護ステーションなど関係機関と予め連携体制を構築。研修を修了した薬剤師が常駐。土日も一定時間開局。地域住民の健康維持・増進を具体的に支援。要指導医薬品(第1類医薬品のうちとくに指導が必要なもの)を適切に選択できる機能を持つこと。プライバシーに配慮した相談窓口設置。健康サポート機能を有することを薬局内外に表示。

(2)高度薬学管理機能

この機能に関して、詳細な説明は省略するが、がんやHIV、難病にも対応できる高度な知識・技術と臨床経験を持つ薬剤師の配置を求めている。

かかりつけ薬局を主軸に健康サポート+高度薬学管理機能

平成26(2014)年の医薬分業率は68.7%でなお伸長傾向にある。約7割の処方せんが病院外で応需されている。進展を続ける医薬分業の意図は、「薬局の薬剤師が専門性を発揮して、患者の服用薬についても、一元的に(すべてまとめて)管理して、多剤・重複投薬の防止、残薬解消を進め、患者の福祉を向上させると共に医療費を適正化させることである(厚労省文書より抜粋)」。

しかし、現在72.7%の薬局が特定医療機関からの処方箋を受けている、いわゆる門前薬局である(図表2)。これでは医療機関ごと、異なる診療科目ごとに処方箋を受けることになり「一元的管理」は難しい。

とくに問題視されているのは、国公立など大型の病院の前に群立している門前薬局で、2016年調剤報酬改定でこの領域にも調査のメスが入れられた。

厚労省は団塊世代すべてが後期高齢期に入る2025年までに、すべての薬局を「かかりつけ薬局」にして、その10年後、団塊世代が要介護になる可能性の高い2035年までに、抗がん剤や難病対応できる高度薬学管理機能を備えた薬局なども地域に移転させ、医療、調剤を地域で完結させる構想を持っている(図表3)。

2016年調剤報酬改定

地域包括ケアシステム構築へ向け2016年度、調剤報酬を改定

2016年度の調剤報酬改定の中で、厚生労働省では「患者のための薬局ビジョン」を具現化するために具体的な一歩を踏み出した。

まず、今回の改定の目玉は今後あるべき薬剤師である「かかりつけ薬剤師」の算定である。かかりつけ薬剤師の要件を満たせば70点の調剤報酬が算定される(1点10円)。かかりつけ薬剤師の要件を図表4にまとめた。

門前薬局の評価の見直し面 分業促進が期待される

薬局ビジョンのサブタイトルにも「門前からかかりつけ、そして地域へ」というスローガンが掲げられている。先述したように医薬分業の意図は、医療機関、医師が随意に、いわば「お手盛り」で処方せんを書いて、不要、不適切な調剤がなされないよう、薬剤の専門家である薬剤師が患者を一元的に管理して、多剤・重複投薬の防止、残薬解消を進め、患者の福祉を向上させると共に医療費を適正化させることにある。

大型医療機関前に群立する門前薬局では、医療機関の「下請け化」して、疑義があっても医師に意見しにくく、本来の医薬分業の目的が果たせない恐れがある。

これを是正するために今回の改定では、薬局グループ全体の処方せん受付回数が月4万回超のグループを対象に「①特定の医療機関からの処方せん集中率が極めて高い保険薬局または②医療機関と不動産の賃貸借関係にある保険薬局の調剤基本料を引き下げる」ことが決まった。

これまで41点だった調剤基本料が、処方せんの集中率や受付回数によって25点もしくは20点に下げられる。調剤に注力している大手ドラッグストア(DgS)、調剤薬局チェーンは月4万回以上処方せんを受けている企業がほとんどだろう。特定の医療機関と結び付いた拠点では点数を下げられることになる。

②は医療モールを対象としており、薬局側がモールを開発して複数のクリニックを誘致するというモデルにも歯止めがかけられた。

調剤報酬の構造と今回改定のポイント

調剤報酬は基本的に図表5で示しているように、各要素の積み上げ方式によって算定されていく。①調剤基本料(19~41点)は施設基準を満たしていれば処方せんを受けるだけで算定される基礎料金である。調剤基本料が算定されなければ基準調剤加算(32点)、後発医薬品調剤体制加算(ジェネリックの一定割合以上の調剤で受けられる加算/18~22点)も受けられない。今回の改定で門前薬局は調剤基本料が低く抑えられた。また、32点をもらえる基準調剤加算の要件に改定があった。その中のひとつに在宅業務実績を年1回以上入れることが義務づけられており、在宅医療誘導への明確な意思が見える。

②調剤料とは文字どおり、必要に応じて分包したり、薬袋をつくったりする技術に対する報酬。薬剤、調剤日数に応じて規定の点数がある。③加算料は「医薬品の特性(麻薬など難しい薬剤)」「調剤技術(無菌製剤の調剤など高い技術を要する調剤)」「休日・時間外」などにより加算される点数。

④薬学管理料は、服薬指導や適切な情報提供などに与えられる点数で、今後重視される領域。今回、ここにかかりつけ薬剤師が盛り込まれた。⑤薬剤料は薬そのものの価格。日本では医療用医薬品の価格(薬局から患者へ販売する価格)=薬価は国によって定められている。原則、調剤薬局は医療用医薬品の販売により利益を挙げることはできないが、実情はメーカー→問屋→調剤薬局間を流通する過程の価格は自由に決められるので、店舗数の多い大規模薬局などは薬価よりも低い価格で調達することができ、「薬価差益」が生まれる。薬局の規模やバイイングパワーによって、本来利益を生まないはずの薬価から利益が生じることは、しばしば問題しされる。⑥特定保険医療材料等はインスリン用の注射器や在宅医療で使う痰を除去するカテーテルなど専門性の高い医療材(器具)の処方に与えられる点数。

調剤報酬改定の影響 今後の選択肢

今回の改定でかかりつけ薬剤師が大きく注目されている。すでに見たようにこれを満たす要件の中にはハードルの高いものもある。とくに多数の薬剤師を抱え、店舗間の異動もある調剤チェーンやDgSでは、人事制度や待遇制度など、企業の根幹となる仕組みを変更しなければ、対応できないだろうと見る専門家もいる。

調剤報酬は前項で見たように項目ごとに多層となっており、今回の改定もその中の一部にすぎない。

たとえば、今回新設されたかかりつけ薬剤師指導料70点は、これを算定しない場合でも服薬指導料41点が付く。その差29点。金額にして290円である。費用対効果を考えれば、ここはあえてかかりつけ薬剤師を算定しないという考え方もある。

収益上、薬局経営上かかりつけ薬剤師指導料の70点は経営を揺るがすほどの大きな問題ではないかもしれない。あるいは大手調剤薬局、DgSは卸、メーカーや問屋との交渉により、技術料が下がる分、薬価差益を強化するというケースも否定できないだろう。

しかし、厚労省は地域包括ケアシステムの構築に向け、着々と準備を進めており、調剤報酬改定を含む法制度にもその意思は明確に表れている。

また、法整備を進める背景には、高齢社会、とくに団塊世代がすべて75歳以上になる2025年を、社会保障費、人的資源双方から、いかに乗り切るかという日本が抱える逼迫した問題がある。小手先の対応をすれば、大きなしっぺ返しがくるだろう。

薬剤師が患者、生活者のかかりつけとして地域生活に貢献することは、医療人としての務めであり、日本の将来にとって大きな意義がある。この務めを果たせるのか否かが問われているのだ。これは調剤報酬などという小さな枠組みを超えた大きな枠組みで捉える必要がある。

各企業、各薬剤師が現状をどのように把握し、どこに進路を取るかで企業間、薬剤師間に中長期的には大きな差がつくだろう。

月刊マーチャンダイジングの発行元である株式会社ニュー・フォーマット研究所および関連取材先の許可を得て、転載しております。

転載元:月刊マーチャンダイジング 2016年7月号 12-15ページ
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薬プレッソ編集部

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