2018年調剤報酬改定からみる調剤薬局ロードマップ(後編)【月刊MD】

2018年4月は、診療報酬(調剤報酬)、介護報酬が同時改正される6年に1度のタイミングでもあった。2025年問題に向け基盤整備するには、実質最後のダブル改定ともいわれる。
本企画では、改定のポイントと調剤薬局の対応を見て、将来の調剤薬局の姿を考える。前回に続いて、後編では実際に調剤薬局がどのように「調剤報酬改定」を捉えたのかを解説する。
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▼目次
薬局事例編1:薬樹
処方せんだけに頼らない、あるべき薬局の姿を追求幅広い視野で、まちの健康ナビゲーターを目指す
薬局事例編では、調剤薬局は今回の調剤報酬改定をどのように捉え、薬剤師育成や薬局運営に今後どのような展望を持っているか、大手調剤薬局2社に取材。薬樹は「健康な人」「健康な社会」「健康な地球」を目指すことを企業コンセプトとしており、それを実現させるために調剤薬局を中心に全部で4つの業態で店舗展開している。今回は、開発と教育を担当する役員2人に話を聞いた。
調剤報酬改定所感
「患者のための薬局ビジョン」追求が明確になった
厚生労働省は2016年の調剤報酬改訂を前に、2015年10月「患者のための薬局ビジョン」という指針を示し、医薬分業に対する考えを明示した。

この指針のサブタイトルは「門前からかかりつけに、そして地域へ」となっており、地域で薬局、薬剤師が患者、生活者の薬剤管理や健康維持を一元的に管理することが述べられている。
薬樹の町田氏はこの方針と今回の改訂について次のように語る。
今回の調剤報酬改定で一番強く感じるのは『患者のための薬局ビジョン』の中にある3つの軸がさらに鮮明化されたということです。われわれは、それが出る以前から、当社なりに薬局のあるべき姿を追求しており、在宅調剤、面分業を進めています。そういう意味では当社の目指すものと改訂は同じ方向にあるとおもっています
町田氏
町田氏のいう三つの軸とは、1立地から機能へ2対物から対人へ3バラバラから一つへ、を指す(図表1)。
この中では、特定の医療機関から処方せんを受けるのではなく、自宅近くなど、地域でかかりつけ薬局がすべての処方せんを受けること、薬中心の業務ではなく、薬を服用する患者自身へより注力することが示されている。
今回の改定で調剤基本料2の受付回数2,000回超の集中率が90%から85%に引き下げられたが、これは1の立地から機能へ、の考えに基づいている。また、吉田氏は「全体でいうと再配分という要素が強いとおもいます」と語っており、これは2対物から対人へ、が改定に反映されたという認識だ。
今後も一定程度「患者のための薬局ビジョン」に沿って改定が進むことが予想できる。
薬剤師教育、業務効率化
一般社団法人で他社と協力して必要な薬剤師教育を実施
薬樹では、自社に加えて大手調剤薬局チェーンである、メディカルシステムネットワーク、メディカル一光、ファーコスなどと共同で「人々の健康な生活を支えることのできる人材の育成と活動支援、研究活動」の3つの機能を持つ一般社団法人ソーシャルユニバーシティを2009年に設立。
最終的には社会貢献を目的に広い視野に立った薬剤師教育を行っている。さまざまな教育、研修が行われているが、主たる内容としてインターネットでライブ配信の講座が月8種類ほどあり、毎回自社、他社合わせ約500人が受講する。
その他リアルな研修としては、在宅医療を想定して、ロールプレーイング形式によるバイタルチェック(脈拍、血圧などの測定)の体感型講座なども実施している。
「現在、日本には5万数千の薬局があり、法人数で見ても2万以上。それぞれが個別に教育、研修システムを持っています。互いに得意分野を持ち寄れば内容は充実し、専門技能は飛躍的に上がるという発想で、一般社団法人を立ち上げました」
町田氏
ソーシャルユニバーシティでは医療人としての薬剤師教育を手厚く行うほか、大学の経済系の教授にも指導をより増やす仰ぎ医療経済的な教育も行っている。
「各社から中堅ミドル層の薬剤師、薬樹では医療用医薬品卸の大管理栄養士が集まりチームに分かれてメディセオが開発し、同社がファーストユーザーとして開発協力した。毎回チームで協議を重ねて半年後にそれぞれが考えたビジネスモデルを発表してもらいます」
町田氏
膨れ上がる医療費を抑制して適正なコストに抑えることも今後の薬局に求められるひとつである。医療費を過度に使うことなく、薬剤師、管理栄養士を活用して地域、生活者に貢献する道は非常に重要だ。それを実現させるためには、医療経済的な発想、知識、技術は欠かせないだろう。
調剤業務の効率化目指し業務支援システムを導入
今後、あるべき調剤薬局を目指すため、あるいは事業として成功するためには患者のQOL(生活の質)を上げ、地域貢献できる薬剤師の育成がカギになる。
そのためには薬剤師教育が重要だが、もうひとつのポイントは機械化、IT化で作業を効率化して、薬剤師の「対物的」な負荷を軽減、「対人的」な仕事に充てる時間をより増やすことにある。
薬樹では医療用医薬品卸の大手メディセオが開発し、同社がファーストユーザーとして開発協力した「PRESUS(プレサス)」という発注、在庫管理、薬歴の記録、会計など調剤業務を一貫してサポートするシステムを採用している。
導入の目的は、薬剤師の仕事の効率を上げて、本来集中すべき患者さんとの時間をより多くつくることです。このシステムにより全店のオペレーションが統一化でき、効率化は進んでいます。今後はITを導入してさらに効率を上げていきたいです
吉田氏
2010年に導入したPRESUSによって欠品率や急配の数が減少するなど、目に見えて効果が表れている。同社では、システム採用に加えて調剤業務の機械化も進めており、薬剤師の対人業務強化に継続的に取り組む考えだ。
今後のビジョン
人、社会、地球の健康を対象に幅広く事業展開する

同社では健康ナビゲーター(健ナビ)という考えで、調剤業務に加えて、食事や運動に関する相談応需、オーガニック商品やスキンケア商品の販売なども行っている。
健康へ対する考えも人の心身の健康を中心に据え、その範囲を社会や地球規模にまで拡大(図表2)、事業、商品の幅を広げている。今後のあるべき薬局、将来のビジョンに関して吉田氏に聞いた。
小森(雄太氏、同社社長)が10年以上前に『健ナビ』という考えを提唱し、あるべき薬局の姿を追求してきました。
あくまで個人的な感想ですが、以前の個人経営の薬局では理想的な薬局というのは、まちの健康相談所として地域の人に頼りにされていた。以前の個人経営の薬局ではないかと感じます。『処方せんだけが通行手形』ではない、気軽に健康相談をしてもらえる薬局です
吉田氏
求められる薬局、今後のビジョンに関して町田氏は次のように語る。

「今後は在宅医療のニーズが高まり、調剤薬局はその一端を担うことが求められ、その傾向はますます強くなるのではないでしょうか。収益性を考えると在宅で大きな利益を出すことは難しい。
しかし、これに取り組まなければなりません。経営的には健康サポートなどほかの事業も取り混ぜてバランスを取らなければいけません。いまのうちから体制をつくっておかなければ厳しいとおもいます。
薬剤師の立場からは当然在宅もやる、そして生活者から近い場所にいて、総合的に健康維持や治療を受け持つプライマリーケアの知識、技術も必要です」
町田氏
「ポスト団塊」でも健康ニーズは衰えない
2025年問題が落ち着き、団塊の世代が減少していけば医療、調剤のニーズもいまほど高くはなくなるだろう。そんな「ポスト団塊」問題について聞いた。
病気や予防、食事との関連性など健康情報に対するニーズは高いと感じています。そうしたニーズに応えられる薬剤師や管理栄養士がいて、健康維持や病気予防の目的で薬局を訪れた人に、求められる情報を提供する。健康を維持するための手段、それに掛かるコスト、さらに、健康を害した場合のコストなど経済的なことも含めてコンサルティングができれば、いまの機能とは異なる薬局ができます。そういうことも可能性のひとつだとおもいます
町田氏
将来的には、いまは治せない病気を治癒させられる新薬が開発される可能性もあります。そうすれば、新薬を使いながら病院ではなく自宅、施設で治療というケースも増えてくるでしょう。結果として地域で健康を支えるニーズが高くなり、薬局がその受け皿のひとつになる。そんな未来もあり得ます
吉田氏
健康の範囲、可能性を拡大し、地域との連携を常に考える。また、医療経済という領域も視野に入れ、薬剤師、管理栄養士を育成する。こうした薬樹の考えや経営は今後の調剤薬局の運営にとって大いに参考になる。
薬局事例編2:アインホールディングス
地域のことを考え積極的に取組む薬局こそが生き残る
保険調剤薬局経営の雄、アインホールディングスは全国調剤薬局1,029店舗、約4,500人の薬剤師を抱える最大手企業だ(ともに2018年4月末現在)。調剤報酬改定をはじめとする今後の時代変化にもかかわらず対応できる、盤石な組織が着々とつくられている。
調剤報酬改定所感と対応
推奨されていることはすでに取り組んでいる

今回の調剤報酬改定は以前から厚生労働省が掲げていた内容であり、厳しい改定になるのはわかっていたことです。準備をしてきたつもりであり、対応も進みつつあります。われわれにとっては、新しいことを求められているのではなく、いままで取り組んできたことの延長線上にあるもの。むしろ力を見せるチャンスだとおもっています
そう語るのは、アインホールディングス (以下、アイン)代表取締役専務の水島利英氏(以下同)だ。
アインでは、在宅医療には2008年から精力的に取り組んでおり、現在9割の薬局で実績があるという。ビジネスとしては難しい面もあるが、社会から強く求められており、また薬剤師の職能も発揮できる分野であると考え、積極的に取組むという。
さらに患者の生活に入り込んで指導していくかかりつけ薬剤師という概念は、「すでに会社全体に根付いた考え方であり、あとから名前が付いた印象」だという。また健康サポート薬局も24店舗ある。まだまだ模索中で課題が多く収益に結び付かないというが、「国が出している方針であり、地域住民のニーズにも応えていきたい」と前向きに取組んでいる。今回の改定によって何かを変えるということはなく、あくまでも理想の薬局を誠実に目指し続ければ、やってきたことが点数になっていくというスタンスだ。
調剤報酬のハードルが上がる流れは避けられません。今回はとくに大手に厳しい改定になりました。しかし、今後は調剤薬局の規模のみを問うのではなく、地域のことを真に考え積極的に取り組む薬局が評価され、そうでない薬局と大きな差がついていくでしょう。そして、地域が求められる薬局しか生き残れないという覚悟で私たちも努力を続けます
教育
1年かけて教育者を教育/新入社員研修は自社で行う
教育やキャリアステップの充実はアインの大きな特徴のひとつであり、採用ホームページでも強調されている点だ。
当社に入社する薬剤師は、とくに真面目な人が多いようにおもいます。教育制度がしっかりしているということは、裏を返せば勉強が大変だということ。だからこそ、勉強熱心な人材が集まってくるのでしょう
新入社員は毎年400~500人を採用している。彼らの教育を行うトレーナーは、自社選りすぐりのブロック長・薬局長だ。1年かけてトレーナーとして教育し、より深く会社の考え方や歴史などを学んでもらう。2013年より5年かけて120人のトレーナーを育成したという。
以前は、研修は外部に委託していました。しかし教育は会社にとって一番大切なことですから自社でやるべきだと改めて見直し、いまのスタイルになりました。
なによりも、新入社員以上に成長するのは、1年もの間教育を受けてきた、トレーナーたちです。人は、人に教える時に1番学びますから。彼らもトレーナーに選ばれることを誇りに感じ、モチベーションアップになっているようです。この教育を通じて成長した優秀な人材が、全国にいる。これは、当社の大きな強みになっているのではないでしょうか
誠実だからこそ、会社の考え方を深く理解する機会が幹部候補育成に有効なのだろう。
優秀な薬剤師獲得の肝は従業員満足の向上

薬剤師不足のこの時代、各社は採用に苦労している。アインではまず組織変更をして、採用課を人事部から運営部の下にした。採用できなくて困るのは、人事ではなく運営課であり、店舗だからである。またリクルーター制度があり、普段は店舗で勤務している薬剤師が各大学のOB・OGとして通常業務のかたわらで採用活動を行っている。
いま勤めているスタッフが『いい会社だ』と感じていなければ学生の皆さんには伝わりません。採用担当者がいいことばかり話して入社したとしても、ギャップがあれば離職につながります。自社社員が会社の想いを理解し、働きがいを感じてもらうことが、一番の採用活動だと考えています
今後も薬局業界は厳しくなることが予想されるが、まだ余力があるうちに投資すべきは「人」ということなのだろう。
生産性向上
マニュアル化と主体性育成の両輪生産性向上に力を入れる
理想の薬局を目指すべく勉強したり丁寧な接客業務を行うためには、時間を生み出し生産性を上げることが必須だ。薬局のあるべき姿を目指すため、アインでは6年前から「生産性の向上」をテーマとして取組んでいる。いわゆる「効率化」だけでなく、一人ひとりが考えて最適なスタイルを追求するというものだ。
以前は、会社の規模が大きくなる過程で機械化・マニュアル化に力を入れていました。まだ日本に薬局というビジネスモデル自体が確立しておらず、われわれがスタンダードになろうとしていたのです。この取組みは、一時期までは有効に作用していました。
しかしマニュアル化しすぎるということは、店舗の人に『モノを考えるな』といっているようなものです。そこで、6年前から『自ら考える薬局プロジェクト』を立ち上げて、おのおのが最適なものを考えてマニュアルをどんどん変化させるようにしました。
ある店舗では在庫日数を30日から大幅に下げることができました。同時に、使用していたスペースも小さくなるわけですから、無駄な動きが減ってスピーディに患者さまに薬を提供できます。待ち時間が減って、残業も減って、その分の時間をよりよい接客業務に費やせる。財務面にも好影響。この1店舗での成功を全国の調剤薬局に導入するように進めて、仕組み自体が更新されました
機械化・仕組み化ができていれば時間が生まれて、各店舗に理想を追求する余裕ができる。よい案が生まれ共有されて、また仕組みとして定着していく、という好循環ができ上がる。この在庫削減の例は一事例ではあるが、今回の改定のポイントのひとつである「対物業務から対人業務へ」にすでに応えていたともいえる。
「アインの取組みに時代が追い付いてきた」一例といえるのではないか。