2018年調剤報酬改定からみる調剤薬局ロードマップ(前編)【月刊MD】 – 薬プレッソ

2018年調剤報酬改定からみる調剤薬局ロードマップ(前編)【月刊MD】

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2018年4月は、診療報酬(調剤報酬)、介護報酬が同時改正される6年に1度のタイミングでもあった。2025年問題に向け基盤整備するには、実質最後のダブル改定ともいわれる。

2025年問題とは、約800万人いるといわれる団塊の世代すべてが2025年に75歳以上となり、医療、介護のニーズが最大化し、医療費や人的資源に危機が訪れるのではないかと危惧される問題。
今回の調剤報酬改定はかかりつけ薬局・薬剤師の重要性が改めて示され、在宅医療への関与も高く評価された。その結果、大規模なチェーン調剤薬局にとっては点数を取りにくい厳しい内容となった。

有力ドラッグストアの中には、調剤事業に注力し業績の柱としている企業が複数ある。しかし、処方せん1枚当りの単価は今回の改定でますます薄利化していき、単純な売上の理論からいえば、業績を維持向上させるためには、処方せん枚数を上げるか保険以外の領域を拡大させるしかない。

今後は約8兆円ともいわれるパイ(調剤市場)の取り合いが熾烈化し、調剤薬局は淘汰の時代を迎えることになるだろう。当然、こうした状況は、ドラッグストア企業の勢力図にも少なからず影響を与える。その意味において、物販部門を担当する店長、従業員も調剤改定の知識とそのインパクトには注視する必要がある。

本企画では、改定のポイントと調剤薬局の対応を見て、将来の調剤薬局の姿を考える。

 

調剤報酬の基礎知識

調剤報酬は図1で見るように、各要素の積み重ね方式で成り立っている、各要素の中には項目が設けられ、基準、要件を満たせば1点(=10円)の点数が付き、それらを合算したものが薬局の収入となる。


1 調剤基本料とは、「1,200品目以上医薬品を備蓄している」「24時間調剤、在宅対応」など、施設や薬局運営に関する基準で一定の要件を満たしていれば付く、文字どおり「基本」的な項目だ。今回の改定では、同一グループの処方せん受付回数が同一グループで1ヵ月4万回超の薬局や、集中率(全処方せん枚数に占める特定の医療機関からの処方せん枚数の割合)が高い薬局は、調剤基本料が引き下げられた。つまり、店数の多い大規模チェーン薬局や門前薬局が引き下げの対象となった。

2 調剤料は、処方せんに基づき医薬品を調剤することに支払われる料金。今回の改定のポイントのひとつは「対物」から「対人」へ、つまり薬剤(物)より、患者(人)に対する労力を重視するということで、調剤料に関しては、内服薬の調剤料引き下げという形でその考えが具現化されている。

3 各種加算は、一定の要件を満たすことで付加的に与えられる点数。いずれも後述するが、「地域支援体制加算」の新設、「後発医薬品調剤体制加算」の引き上げなどは加算に関する改定のポイントである。

4 薬学管理料は、服薬指導やかかりつけ薬剤師として患者を指導することで付与される。「対人」業務に属しており、今回の改定では一部で引き上げられた。

5 薬剤料は医薬品の料金。使用頻度の高い薬剤の価格は今後も継続的に下がる方向にある。

6 特定保険医療材料料とは、インスリン注射などに使う使い捨ての注射器などの医療機器。対物から対人への流れで、薬剤、医療材合わせてマイナス1.74%の改定となった。

改定のポイント

「対物から対人へ」患者を継続的にケアする体制を重視

2018年改定に当り、厚生労働省は保険局医療課名で「平成30年度診療報酬改定の概要」という文書を発表している。改定に関する基本的な考えや方針をまとめたものだ。その中で4つの柱を示した(図表2)。

全体を通して見えるのは以前より厚労省から示されている将来の医療、健康維持の基本構想である「地域包括ケアシステム」(図表3)を実現させるという明確な意思である。既定路線が再度整備されたといえる。

この方針の下、調剤薬局としては「在宅医療(調剤)」への関与がいまよりも求められる。さほど高い収益は見込めないが、人材育成や移動時間(人時)など経営資源を投入する必要があるこの領域をどうつくっていくかは、多くの大規模調剤薬局にとって課題となるだろう。

図表2、IIの調剤の項目にある「薬局における対人業務の評価の充実」とは、かかりつけ薬剤師を中心に、薬剤師が患者を一元的、継続的にケアすることが主旨である(図表4)。

調剤業務や医薬品など対物的な評価は相対的に引き下げられた。薬剤師は薬を調剤して渡すだけでなく、患者およびその生活を見なければいけないということだ。IVにある「調剤報酬(いわゆる門前薬局等の評価)の見直し」は、特定の医療機関と結び付いて、そこから集中的に処方せんを受けるという調剤薬局の運営を改め、一人の患者とひとつのかかりつけ薬局を結び付けようという方針である。

現在、ひとつの医療機関から出される処方せんは、その医療機関の近隣にあるなどの理由で特定の薬局で調剤されることが多い。複数の医療機関にかかっていれば、その数だけ薬局を使うことになる。

今後は、複数の処方せんが出ていても、それらを自宅近く地域の「かかりつけ薬局」に集めることで、患者一人を総合的にケアし、結果的に集中率も下げようということである。調剤基本料の変更で以前からの方針が具体的に強化された。その他、薬剤師の産休、育休に関する配慮も盛り込まれるなど、薬剤師の働き方に関する改善も見られる。

次項から個別の改定についてポイントになるものを見ていく。

大規模調剤薬局には厳しい調剤基本料の変更

図表1で見た調剤報酬の1「調剤基本料」が変更された。処方せん枚数が多い調剤薬局(大規模調剤薬局)、集中率(全処方せん枚数に占める特定の医療機関からの処方せん枚数)が高い調剤薬局(門前薬局など)に対しては低い点数が付与される仕組みになった(図表5)。

この後に見る「基準調剤加算」の廃止、「地域支援体制加算」の新設と合わせ、大規模に店舗展開する調剤薬局チェーン、ドラッグストアにとっては収入の柱にメスを入れられた格好で、下落する処方せん1枚当りの収入をいかにカバーして、調剤事業を進めるかは経営的な課題になる。

Point

企業全体として、また1薬局当りの処方せん受付回数が多いほど点数は低くなる。大手の調剤薬局チェーン、ドラッグストアには厳しい内容。また特定の医療機関からの集中率が高いほど点数は低くなる。門前薬局、医療機関と連携して調剤を行うマンツーマンの薬局に厳しい。

「基準調剤加算」廃止「地域支援体制加算」新設

これまでの「基準調剤加算」を廃止して「地域支援体制加算」が新設された。

基準調剤加算とは、一定の施設基準を満たしていれば32点が加算される項目で、経営的には基準を満たすことで処方せん1枚に対して確実に見込める収入だったが、これが廃止された。「地域支援体制加算」は、薬剤師の指導能力や在宅医療を評価する加算で、内容で見れば改定の柱のひとつである「対物から対人へ」という方針を代表する変更である。

図表5で見た「調剤基本料1」の基準を満たし41点加算される薬局は、地域支援体制加算35点も同時に算定される。規模が小さい薬局には有利な改定といえる。

一方で、調剤基本料1の基準を満たさない場合、地域支援体制加算を算定するには下記の8つの要件が付き、自助努力では満たしようのないものも含まれ、ハードルは相当高い。単純に処方せん受付回数で考えても、一定の規模のある調剤薬局は調剤基本料1と地域支援体制加算2つの項目で点数を得られないというダブルパンチを受けることになる。

処方せん1枚当り500円程度の報酬を失うという試算もある。その場合、1店舗当り1ヵ月2,000枚の処方せんを受けている薬局なら、500円×2,000枚で月100万円、年間1,200万円の調剤報酬(売上)を失うことになる。店数が多いほどに、大手の調剤薬局、ドラッグストアの調剤事業の収益性低下は避けられない。

後発医薬品調剤体制加算改定前の2段階を3段階にジェネリック処方促進

後発医薬品とはジェネリック薬とも呼ばれ、新薬(先発医薬品)の特許が切れた後に発売される新薬と同じ効き目を持ち、価格の安い医薬品のこと。患者負担軽減、医療費削減につながるので、厚労省は使用を奨励している。

どの程度加算されるかは調剤量に占める後発医薬品の割合で決められ、改定前は以下の2段階だった。

(1)65%以上=18点、(2)75%以上=22点。

改定後は以下の3段階になる

(1)75%以上=18点(2)80%以上=22点(3)85%以上=26点。

厚労省は2020年9月までに80%以上を目指すとしている。さらに、処方せんに医薬品の商品名を書くのではなく、有効成分名を書く「一般名処方」の加算は改定前の一般名処方加算1(すべてを一般名で処方)=3点から6点に、同様に一般名処方加算2(一品目でも一般名で処方)は2点から4点に引き上げられた。

一般名処方とは、たとえば、商品名である「ロキソニン」ではなく有効成分である「ロキソプロフェンナトリウム」と処方せんに記載すること。今回の改定で後発医薬品を使いやすくなる。価格の安い後発医薬品が増えれば、調剤薬局側の収益は下がることになる。

専門家の視点

専門性重視と効率優先、薬局は二極化の流れ患者満足という概念の浸透が、患者、薬局双方に必要

メディエイドは医療、介護、保健の分野でICTを活用したサービスを提供する企業である。調剤薬局や医療機関などを対象に事業を展開する同社の取締役COO矢島弘士氏に、調剤報酬改定のポイントや今後の調剤薬局、医療の方向性などを聞いた。

複層的な運営が必要になる大手調剤薬局

今回の調剤報酬改定の特徴を矢島氏は次のように見る。

「2016年の改定時に『かかりつけ薬剤師』という制度が設けられ、今回『地域支援体制加算』ができました。厚生労働省は『地域包括ケアシステム』という全体最適を目指して本気で取り組んでいるというメッセージがより鮮明に出されました。私の推測ですが、地域支援体制に続いて健康サポート体制=予防領域に関しても強化するようなメッセージが今後の報酬改定の中で出されるのではないでしょうか」

国は進行する超高齢化に向け、地域包括ケアシステムや医療機関の機能分化と医師の再配置(図表7)などのインフラ整備を急いでいる。そしてあらゆる医療機関からの処方せんを地域のかかりつけ薬局に集めるというのが最終の目的だ。

こうした方針の下、地域密着で在宅医療を含めた専門性の高い業務を提供する薬局と、軽微な疾患に対応する安全で迅速、低コストの効率優先型の薬局、2つのグループに分かれていくと矢島氏は見ている。

大手薬局は、経営的に見れば収益性の低い在宅医療を拡大することは難しいだろう。拠点的な店舗で地域密着の運営をしつつ、ある程度広域で効率優先の薬局を運営するという二層方式にならざるを得ない。そこに予防領域のサービスや物販を組み合わせ収益性向上を図る必要がある。また、効率優先の調剤業務はいわばマス市場になり、大手同士の激しいパイの取り合いが始まる可能性も高い。

患者満足とペイシェント・ジャーニー

患者中心のかかりつけ薬剤師、かかりつけ薬局の機能や対人業務が評価された今回の改定だが、厚労省の意図が実現するためには、サービスを受ける側がそのメリットを認識する必要がある。

「現在、薬局で調剤してもらうとき、薬剤師から健康維持や病気の重症化防止に関する有益な情報が提供されることを期待している患者は少ないでしょう。顧客満足という概念があるように、調剤薬局でも『患者満足』という概念が必要だとおもいます」

矢島氏が主張するのは、患者満足を高めるには、調剤に訪れたときだけでなく、広く患者の生活を知ること=ペイシェント・ジャーニーが重要になるということだ。いい換えれば、食習慣や睡眠状況、どの程度運動しているかなど、健康に関する生活情報の把握といってもいいだろう。

「現在、患者を処方せんという点で捉えています。これを線で捉えるためには、ITが有効です。たとえば、血圧、脈拍などのデータを自己チェックしてアプリに上げて薬剤師がチェックする。オンラインでアドバイスしてもいいし、薬局でフィードバックしてもいい。必要があれば受診勧奨する。薬剤師が介入し医療機関と連携することで、線から面で患者を捉えることができます。また、薬局に商品を置くスペースがない場合、ECやカタログなどで宅配する。こうしたオンライン、オフラインを絡めたサービスを提供すれば、狭い薬局でも物販が可能ですし、ペイシェント・ジャーニーを追うこともできます」

薬局、薬剤師がどのような情報、サービスを提供できるのかを積極的にアピールして1.「患者満足」という概念を確立させること。2.ITを活用して患者の生活を知ること。矢島氏の2つの提案は今後薬局が生活者のQOL(生活の質)向上に貢献するために、そして経営的に勝ち残るためにも重要なポイントである。

>>後編へつづく

月刊マーチャンダイジングの発行元である株式会社ニュー・フォーマット研究所および関連取材先の許可を得て、転載しております。

転載元:月刊マーチャンダイジング 2018年7月号 56-65ページ
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薬プレッソ編集部

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