薬剤師に役立つスキル『コーチング(質問編)』~患者さんの考えを引き出し改善策へ~

患者さんの考えを引き出す「拡大質問」「限定質問」とは
コーチングの「質問」とは、患者さんの考えを引き出す問い方です。質問の投げかけ方によって、その返答や患者さんの思考がずいぶんと異なっていきます。まずは、「拡大質問」と「限定質問」について説明します。
「拡大質問」とは、患者さんにたくさん話してもらうための質問のことを指します。
例えば、「今日はどうされましたか?」のように話しかけます。コーチングで推奨されるものですが、薬剤師の立場では少し使いづらいこともあるでしょう。なぜなら、患者さんの答えが、病院で看護師や医師に一度説明している内容と重なってしまうことが多くあるからです。同じような答えをもう一度話すとなると、面倒に感じられるかもしれません。
「限定質問」とは、「はい・いいえ」または「単語」で答えられる質問のことを指します。例えば、「主治医の先生の名前は?」「診療科はどこですか?」のように話しかけます。コーチングではあまり使用しないものですが、答えのある確認のための質問であるため、患者さんは答えやすいでしょう。それらの情報を共有することで、少しずつ信頼関係が出来上がっていくはずです。
この二つの質問の特長を踏まえ、患者さんとの関係に合わせて使い分けていきます。顔見知りの方や話し好きな方には「拡大質問」を、初対面の方やシャイな方には「限定質問」を。そうすることで、スムーズなコミュニケーションが取れるようになるでしょう。
効果的な「質問の仕方」とは
ここからは、コーチング特有の「質問の仕方」について六つに分けて説明します。
1つ目は、「過去質問」です。
過去に焦点を当て、過去にさかのぼって患者さんの考えを引き出す質問です。
終わったことは誰にもどうすることもできないため先に進むことができず、患者さんをポジティブにさせにくい質問です。患者さんに「そんなことを言われても仕方ないじゃないか」などと感じさせてしまうかもしれません。あまりお勧めはできません。
2つ目は、「未来質問」です。
未来に焦点を当て、未来に向かって患者さんの考えを引き出す質問です。
「過去質問」と違って、未来に焦点が当たっていることで、患者さんのこれからの行動に結びつきやすい結果が得られます。ポジティブに答えを導きやすいので、うまく使いこなしたいものです。お勧めです。
3つ目は、「否定質問」です。
患者さんの言動を打ち消してしまう、否定的な言葉を含む質問です。
「やることをやっていなかった」「失敗した」のようなネガティブな場面で使われることが多く、患者さんは保身にまわって考えを閉ざしてしまいがちです。質問した意味がない…というようなことになってしまうかもしれません。あまりお勧めはできません。
4つ目は、「肯定質問」です。
患者さんの言動を明るく前向きにとらえる、肯定的な言葉を含む質問です。
「どうしたらうまくいくか」のように質問し、患者さんの言動を肯定的にとらえて考えを促します。ネガティブな方でも徐々に具体的な行動に結びつけることができます。お勧めです。
5つ目は、「Why質問」です。
「なぜ・どうして」という言葉を使って、患者さん自身の責任を追求してしまう質問です。
トラブル発生時に「どうして(Why)間違えたのですか」のように、必ずと言ってもいいほど使ってしまいます。ですが、犯人への尋問のようになってしまい、患者さんを傷つけるだけの結果を招くことが多いでしょう。改善策に繋がりづらく、あまりお勧めはできません。
6つ目は、「What質問」「How質問」です。
「なにが・どのように」という言葉を使って、原因を患者さん自身ではなく外側に引っぱり出すことのできる質問です。
トラブル発生時に「何が(What)ありますか」「どのように(How)やりますか」のように使います。患者さんは自分が責められた感じがしないので、そのトラブルについて冷静に客観的に考えることができます。何が原因なのか、どのようにしていったらよいか具体的な改善策を患者さんと一緒に考えていくことができるでしょう。お勧めです。
コーチング特有の「質問の仕方」については、以上です。
これらの特長を踏まえ、お勧めの「未来質問」「肯定質問」「What質問」「How質問」を組み合わせていきます。そうすることで、患者さんを責めたり傷つけたりすることなく、潜在的な問題を明確化していくことができるでしょう。
いかがでしたか?質問のスキルについてお話しました。
ポイントは、まずは「拡大質問」と「限定質問」を使い分けることです。そして、質問を投げかけるからには、過去の原因追求ではなく、未来への問題解決が重要です。トラブル発生時には、WhyよりもWhat・Howを使うように心がけます。薬剤師として患者さんとの関係性を見極め、肯定的に患者さんの行動を促し具体的な改善策へ導きましょう。
今回のまとめのポイント
・「拡大質問」「限定質問」を使い分けて、患者さんの考えを引き出すこと
・過去の原因追及ではなく未来への問題解決で、肯定的に患者さんの行動を促すこと
・Whyではなく、What・Howを使うことで具体的な改善策へ導いていくこと
ウィズサポ代表
川村 和美(かわむら かずみ):名城大学薬学部薬学科、同大薬学研究科博士号取得。薬局勤務を経て2009年に経営倫理士資格を取得。薬剤師の「倫理」の観点から薬剤師教育に尽力。日本薬学会、日本医療薬学会の代議員としても活動。執筆歴としては『薬剤師とくすりと倫理』執筆『そこが知りたい,緩和ケアにおける服薬指導』の『緩和ケア』編執筆など多数。