【第十三回】自己の責任の有無 -薬剤師が知っておくべきクレームへの対応 – 薬プレッソ

薬剤師の法律のイロハ|赤羽根弁護士

【第十三回】自己の責任の有無 -薬剤師が知っておくべきクレームへの対応

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薬剤師にとって、日頃の業務と法律は深く関わっています。本シリーズでは、薬剤師が知っておくべき法律のイロハについて、赤羽根弁護士から講義形式でお伝えいたします。動画は5分程度ですが、講義内容を文章で閲覧されたい方は、こちらの記事で内容をご確認ください。

自分が窓口になる

前回、クレーム対応の際には、患者側の感情を和らげる必要性があること、その対応はケースバイケースにならざるを得ないところがあるとお話ししました。

次に大切なポイントは “自己の責任の有無”を前提に対応をしなければいけないという点です。薬剤師の多くの方は調剤過誤をした場合、加入している保険から、その過誤に起こった損害が支払われる場合が多いと思います。ただし交通事故などの場合は保険会社の方が窓口になって、被害者や被害者側の保険会社とやり取りをして、示談交渉をしてくれることが多いのですが、薬剤師の賠償保険の場合には保険会社の方は窓口にはなってくれません。基本的には、どのように示談にするのか、和解するのかを自分たちで進め、対応をしなければなりません。過誤の損害の程度によっては、初めから弁護士に依頼しなければならない場合もあるかもしれません。ただすぐに弁護士が入ることで、患者さん側もいい顔をしないところもあると思うので、まずはある程度自分で対応しなければならないことは意識しておく必要があります。

因果関係の検討

その上で、患者さんとのやり取りをどのように進めていくのか。もちろん、過誤がない、法的責任がないという場合はそれを前提に進めていただき、安易に金銭を支払ってしまうような解決は適切ではありません。それは、薬剤師業界にとってもよくないと思います。では、何らかの過誤があり法的責任はありそうだというときに、次に考えなければいけないのは“因果関係はどこまであるのか”ということです。例えば入院したと言っている場合、入院したところまで因果関係はないのではないか、といったことも、検討しなければいけません。

また、損害という意味では、例えば病院に通った損害などそれが本当に法的に認められるような損害と言えるのかどうかも、やはり検討しなければいけません。患者さんが言ってくるものが本当に全て法的に填補しなければならない損害に当たるのかどうかも、実は大きな議論として出てくる可能性があるのです。

着地点を意識しながら進める

ですから、どこの辺りで話をつけるのが重要なのかは、もちろん保険会社の担当の方に「どこまで保険がおりるのか?」確認をしておく必要もあるかもしれません。また実際、健康被害が起こっているようなものであれば、専門家に聞いて、どの辺りが落としどころか、検討しておく必要があります。

実際に、薬局側が患者さんとやり取りをしていく中で、お互いに何を求めているか分からない、どう解決したら良いかよく分からないという場面もあると思います。なかなか話が進まず、逆に患者さんが不信感を持って、関係が悪くなっていってしまうなんていうことも、実際の事例ではあるようです。ですからぜひ着地点を見極めて、それに大体この辺りで落とさなければいけないということを意識しながら進めていくということが重要です。

ただ、お子さんが被害に遭ってしまったような場面ということになると、お金をもらって親御さんが納得できる状況というのはなかなか少ないです。ですが、法的な解決をするということは、やはり金銭で解決せざるを得ないということも意味しています。それをどこのタイミングで出すかは置いておいても、着地点を見極めて、どこかのタイミングで金銭で解決するしかないんだというのをその患者側の方にご理解をいただいた上で話を進めていく、ということが必要になります。薬局側としてはそういう意識を持っておくことが大切です。

今回のポイントまとめ

・ある程度自分で対応しなければいけないことを意識する
・患者さんと実際にやり取りする中では、着地点を見極めて進めていくことが重要

赤羽根 秀宜(あかばね ひでのり)
中外合同法律事務所パートナー, 薬事・健康関連グループ代表
弁護士・薬剤師
薬剤師の勤務経験がある弁護士として、薬事・健康・個人情報保護等にかかる問題を多く取り扱う。主な著書に「医薬品・医療機器・健康食品等に関する法律と実務」(日本加除出版株式会社)、「赤羽根先生に聞いてみよう 薬局・薬剤師のためのトラブル相談Q&A47」(株式会社じほう)等がある。

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薬プレッソ編集部

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