【第十二回】謝罪の必要性 -薬剤師が知っておくべきクレームへの対応 – 薬プレッソ

薬剤師の法律のイロハ|赤羽根弁護士

【第十二回】謝罪の必要性 -薬剤師が知っておくべきクレームへの対応

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薬剤師にとって、日頃の業務と法律は深く関わっています。本シリーズでは、薬剤師が知っておくべき法律のイロハについて、赤羽根弁護士から講義形式でお伝えいたします。動画は5分程度ですが、講義内容を文章で閲覧されたい方は、こちらの記事で内容をご確認ください。

謝罪はしてもいいのか

患者さんからのクレームに対して、誠意のある対応をするという中で、よく話題になるのが、“謝罪はしてもいいのか”という点です。交通事故を起こしたときに謝罪をすると不利だから謝罪してはいけない、などと言われることもあって、謝罪してはいけないのではないかと思われる方も多いかもしれません。

ただ、患者さんの感情を和らげることを目標としている中で、仮に自分が薬を間違えたという明らかな事実がなければ、当然謝罪は難しいと思いますが、ミスがあったことが明らかになっているにもかかわらず、謝罪しないで、患者さんの理解が得られるかいうと、それはやはり難しいと思います。ですので、ミスがあったことが明らかな場合は、それは謝罪をしなければなりません。

ただ、謝罪の対象は明確にしておく必要があります。「ミスがあったことは、本当に申し訳なかった」と謝罪するのはいいのですが、その後よくあるのが「うちは保険に入っているので、保険で対応できますから、何でもさせていただきます」のように言ってしまうケースです。保険会社に「こういうふうに患者さんが請求しているんだけど」と言っても、保険会社は、請求されたものを全部支払うわけではありません。保険は、保険会社が認めたもの、法的に損害と認められるものは支払いますが、そうでないものは、なかなか支払ってくれません。その後患者さんに「すいません。やはり保険会社に聞いたら『それはできない』と言われた」と話すと、「話が違うじゃないか」ということで、信頼を失うばかりか大きな揉め事に発展してしまうことがあります。「ミスがあったことは申し訳なかった」とする一方で「今後の対応については、専門家や保険会社と話して、検討させていただく」と言っておいて、その後、具体的な内容が決まればそれに基づいて、交渉を進めていくという対応をしなければなりません。

その場しのぎではなく時間をとる意識も必要

どうしても、怒っている人が来ると、その場を丸く収めてその人に早く帰ってほしいということに力を注ぎがちです。ですが、その場しのぎのいいことを言ったとしても、その話した内容をもとに後から「あの話はどうなってるんだ」と言われるわけです。その時に「すいません、会社に確認したら、実は『そういうことはできない』と言われました」ということになると、結局そのやり取りが長引いてずっと嫌な思いをするなんていうことになりかねません。

ですから、こういう患者さんとやり取りする時には、その場を収めるということももちろん重要な要素の一つではありますが、最終的に理解を得て、解決しないと意味がないということを意識することが重要です。そのためには何が必要で、どういうことを伝えていったらいいのかを意識しないで、その場だけ解決しようと思っても、後々、ずっと紛争が続いてしまうということになりかねないのです。

人の怒りとか感情というのは、時間を置くことによってその感情が薄れ、悪い方向に行かなくなることもあります。特に調剤過誤の場合などは、患者さんの一時期悪かった病状がその後回復していっていることがわかると、お互いに落ち着いて話ができるようになることもあります。そういう意味で、その場だけでなく「検討するので少し待ってください」と言って時間を取るということも意識として重要なのです。最終的な理解を得ていくためには、そのような進め方をしていく必要性があるのです。

今回のポイントまとめ

・ミスがあったことが明らかな場合は、それについて謝罪をする
・その場で解決しようとせず、「検討するのでお待ちください」というのも重要

赤羽根 秀宜(あかばね ひでのり)
中外合同法律事務所パートナー, 薬事・健康関連グループ代表
弁護士・薬剤師
薬剤師の勤務経験がある弁護士として、薬事・健康・個人情報保護等にかかる問題を多く取り扱う。主な著書に「医薬品・医療機器・健康食品等に関する法律と実務」(日本加除出版株式会社)、「赤羽根先生に聞いてみよう 薬局・薬剤師のためのトラブル相談Q&A47」(株式会社じほう)等がある。
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薬プレッソ編集部

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「プレッソ」にはイタリア語で「すぐそばに」という意味もあります。編集部一同、薬剤師のみなさんと伴走しながら、みなさんの「もっといい人生、ちょっといい毎日」のために「ちょっといいメディア」にしていきたいと思っています。

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