【第七回】民事責任と損害の填補 - 薬剤師が知っておくべき調剤過誤にかかる法的知識 – 薬プレッソ

薬剤師の法律のイロハ|赤羽根弁護士

【第七回】民事責任と損害の填補 - 薬剤師が知っておくべき調剤過誤にかかる法的知識

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薬剤師にとって、日頃の業務と法律は深く関わっています。本シリーズでは、薬剤師が知っておくべき法律のイロハについて、赤羽根弁護士から講義形式でお伝えいたします。動画は5分程度ですが、講義内容を文章で閲覧されたい方は、こちらの記事で内容をご確認ください。

調剤過誤の法的責任「民事責任」とは

最後に調剤過誤にかかる3つ目の責任“民事責任”についてお話しをします。
民事責任には“契約責任”、“不法行為責任”の2種類があります。

民事責任は簡単に言うと「被害者に対して損害を填補しなければいけない責任」です。前回お話しした“刑事責任”、“行政責任”というのは、どちらかと言うと国から処分を受けて罰を受けたり、業務停止などの処分を受けるという、国に対する責任と言ってもいいかもしれません。“民事責任”は、少し種類が違いまして、「被害者に対して対応をしなければいけない責任」です。
被害者に対して何をしなければいけないかというと、「損害を填補しなければいけないという責任」になります。“損害の填補”とは「損害を回復する」と言ってもいいのかもしれませんが、法律的な意味での損害の填補とは金銭の支払い義務だと考えられます。例えば、調剤過誤をして、人が一人亡くなってしまったという場合でも、被害者に対してお金を払えば、法的にはその問題が解決できるということを意味します。裁判実務では、人が一人亡くなったら、慰謝料や、逸失利益の計算方法などが類型化されていて、それに基づいて金額が大体算定されることになります。

ただ、遺族の方または、後遺症が残ってしまった方にとっては、お金を払ってもらったからといって、本当の意味では納得できないことのほうが圧倒的に多いかと思います。ですから、調剤過誤によって患者さんに健康被害が起こってしまうということは、法的には解決はできても、全面的な解決はできない。本当にご納得いただくというのはなかなか難しいのです。保険に入っているから大丈夫だろうというような議論は、なかなか通らないと言えます。そういう意識で金銭支払い義務というのを捉えていただきたいと思います。

民事責任は誰が負うのか

また、民事責任がどういった場合に発生するのかというのも重要になります。民事責任は、基本的には、次の3つの要件「過失」、「因果関係」、「損害」がすべて揃うと、“損害賠償請求権”という権利が患者さんに発生し、薬局や薬剤師には、その支払い義務が発生します。すべて揃うというのがとても重要ですので、それを理解をしておいてください。

患者さんは、損害を請求できるということになっていますが、これが誰に請求できるのかというのは、大きな問題と言えます。例えば、ミスをしてしまった薬剤師個人というものが考えられますし、間の立場である、多くが株式会社である開設者ということもありますし、管理薬剤師ということもあるかと思います。被害を受けた患者さんは、全員に損害を支払えと言うことができます。基本的には、患者さんの意思に任せられるということになっています。

ですから、ミスをしてしまった薬剤師が自分の責任だからといって、開設者や管理者に隠しておくことは、問題があります。自分のミスに対して開設者や管理者も責任を問われる可能性があるわけですから、きちんとそれを報告しなければいけません。
また、開設者や管理者は、その従業者たる薬剤師のミスに対して責任を問われる可能性があるので、ミスが起こりにくい、ミスが起こったらきちんと報告してもらえるような体制を整えておくことが大切です。

今回のまとめポイント

・調剤過誤にかかる3つ目の法的責任は、民事責任である。
・民事責任は、3つの要件「過失、因果関係、損害」がすべて揃うと、“損害賠償請求権”という権利が患者さんに発生し、薬局や薬剤師には、その支払い義務が生じる。
・損害の請求は、薬剤師個人、管理薬剤師、開設者、全員に支払い請求が可能である。

赤羽根 秀宜(あかばね ひでのり)
中外合同法律事務所パートナー, 薬事・健康関連グループ代表
弁護士・薬剤師
薬剤師の勤務経験がある弁護士として、薬事・健康・個人情報保護等にかかる問題を多く取り扱う。主な著書に「医薬品・医療機器・健康食品等に関する法律と実務」(日本加除出版株式会社)、「赤羽根先生に聞いてみよう 薬局・薬剤師のためのトラブル相談Q&A47」(株式会社じほう)等がある。

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薬プレッソ編集部

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