【第四回】法令の趣旨を理解する - 薬剤師が知っておくべき法律のイロハ – 薬プレッソ

薬剤師の法律のイロハ|赤羽根弁護士

【第四回】法令の趣旨を理解する - 薬剤師が知っておくべき法律のイロハ

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薬剤師にとって、日頃の業務と法律は深く関わっています。本シリーズでは、薬剤師が知っておくべき法律のイロハについて、赤羽根弁護士から講義形式でお伝えいたします。動画は5分程度ですが、講義内容を文章で閲覧されたい方は、こちらの記事で内容をご確認ください。

コンプライアンスを達成するための体制

前回“コンプライアンスを達成する”ということが非常に重要であるとお話ししました。そうなると当然「法律を守れ、ルールを守れ」ということになるわけです。コンプライアンスを達成するためには、組織として、また薬剤師個人としても、ルールを守るということを意識して業務を行わなければいけません。会社は、ガバナンスの体制を整えて、問題があれば把握できる体制をきちんと整えていかなければいけないということになります。

ただ、「ルールを守れ」と言われると、皆さんもそうだと思いますが、「なんで、この忙しい時にそんなことしなきゃいけないんだ」と、非常にストレスに感じると思います。「なんで、手続きを余計に踏まなければいけないんだ」と。例えば薬局であれば、医療安全のためにはそれが必要だと理解はしていても、目の前の忙しさの中で、それをどうしてもないがしろにしてしまう。コンプライアンスを達成するということをあまりに重要視するとストレスが溜まってしまって、うまく回らないばかりか、結果的に問題が起こり得ることもあると言われています。

形式的な法令遵守では足りない理由

近年は盛んにコンプライアンス、コンプライアンスと言われますが、“法令遵守”(法令を形式的に守っておくということ)だけでいいのかというと、そうではありません。法律というのは、権利を制限する性質があるものだとお話ししました。例えば、業務で医療安全のためにこういったことをしなさいという義務を課しているのには、当然理由があるのです。理由がなければ、法律は作ってはいけないのです。権利を制限するわけですから、理由なく国民の権利を制限するなんていうことはできません。ですから、法律も法令も、当然ながら理由があって、それを基にできている、権限を制限しているということになります。なぜこの法律があるのかということを理解して、その上でルールを守ってもらうということがとても重要になってきます。

最近は、コンプライアンスも形式的にその法律を守っておくだけでは足りず、きちんと法令の趣旨(法令がなぜできているか、これはどういうことを目的にしてできているのか)を理解をした上で、遵守しなければ意味がないと言われています。いわゆる法律というのは、例えばこういう規制をすることで、国民が安全に生活できるようにしてほしいといった要請があってできるものです。ですから法令の趣旨を理解して運用することによって、初めてその目的が達成できるのです。薬剤師はもちろん、そうしなければ企業は社会的な要請に応えることができません。ですから、法令を形式的に守るのではなくて、法令の趣旨を理解して、その運営をしていくことがとても重要です。そうすることによって、ストレスに感じることなく、より業務がうまく回ることにつながっていく、と思います。

法の趣旨を理解することは最大のリスクマネジメント

法令の趣旨を理解して運用していくことは、それ以外でもとても重要です。なぜなら法律というのは、画一的に条文が決まっていて、それでルールが全部明確になっているわけではなく、常にこの文言がどういう意味を成しているのかという解釈が伴うわけです。法律家、当然裁判所も、なぜこの法律ができているのかということを基に解釈していくということです。

薬剤師の皆さんは、現場で迷ったときに、「この法律やルールはなぜあるのか」というのをぜひ考えて、法の趣旨に従って運用をしていただきたいのです。万が一、責任問題などになったときには、裁判所は、その“法の趣旨に従って”判断するわけですから、趣旨を踏まえて活動しておけば、基本的には法に反しづらく適法になりやすいということになるからです。それでも、「法の趣旨に反しても、自分なりに考えて行動していて、結果的に違法な行為であったり、過誤を起こしてしまった」なんていうこともあり得ると思います。そうなったときには、「法の趣旨に従って運用していたけれども、過誤につながってしまった」ということになると、社会的な非難が少なくて済む場合があります。

法の趣旨に従った運用をしておくということは、企業の中でも“最大のリスクマネジメント”だと言われています。また薬剤師も、自身の身を守るときには、単なる形式的なものではなくて、法律の趣旨を理解した上で運用していくことが最大のリスク回避になるかと思います。そういう意識で法律を見て、日々の業務を行っていただければと思います。

今回のポイントまとめ

・法律も法令も、理由があって権限を制限していることを理解することが重要である
・法の趣旨を理解した上で運用することが、最大のリスクマネジメントになる

赤羽根 秀宜(あかばね ひでのり)
中外合同法律事務所パートナー, 薬事・健康関連グループ代表
弁護士・薬剤師
薬剤師の勤務経験がある弁護士として、薬事・健康・個人情報保護等にかかる問題を多く取り扱う。主な著書に「医薬品・医療機器・健康食品等に関する法律と実務」(日本加除出版株式会社)、「赤羽根先生に聞いてみよう 薬局・薬剤師のためのトラブル相談Q&A47」(株式会社じほう)等がある。
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薬プレッソ編集部

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