【第三回】コンプライアンスの重要性 - 薬剤師が知っておくべき法律のイロハ

企業経営における「コンプライアンス」
法令の体系を理解した上で、法律だけではなく規則や通知なども確認しなければならない、という前提を前回お伝えしました。今回は最近よく聞かれるようになった「コンプライアンス」についてお話ししていきます。
薬剤師の方だと、コンプライアンスというと、「服薬遵守」という言葉で捉える方が多いかもしれませんが、世の中で一般的にコンプライアンスといわれるものは通常は「法令を遵守しなければいけない」という意味になります。
「法令遵守」という言葉は、会社法(2006年施行)が成立したときに「会社は法令を守らなければいけない」という体制を作る必要性があり、それが取締役の責務だと定められました。その中に法令遵守という言葉があるために「コンプライアンス」というのは、ここ十数年で非常に重要だと言われてきています。そんな中、その法令を形式的に遵守するということに重きを置きすぎて、コンプライアンスのために実際の業務があまり回らなくなってきてしまう、なんていう弊害も言われているところです。
ただ、今の時代は一般の会社においても、非常にコンプライアンスに力を入れて、「いかにコンプライアンスを達成しながら社会的な要請に応えていくのか」を意識して、企業経営をしています。これは、当然薬局、薬剤師でも同じことです。薬局も近年いろいろな不祥事もありますが、それも法令に違反するということになると、非常に話題になって、薬剤師業界自体にも大きなダメージを与えてしまう。また、その会社にも大きなダメージを与えてしまうので、法令を守る、コンプライアンスというものが薬局の業界でも変わらず重要なんだという意識を強く持っておく必要性はあるだろうと思います。特に薬事業界は、多くの規制がある業界ですので、法令というのはどういうものかを意識しながら、業務を行わなければいけません。
「コンプライアンス」と企業利益の関係性
薬局の多くは株式会社だと思います。株式会社の目的は、基本的には経営をして、それで利益を上げていくことです。実際、通常の会社は利益を上げるために効率化を図っていくということを考えます。コンプライアンスということはわかっているのだけれど、効率化も図らなければいけない。法令を守らなければいけないと思いながらも、その利益のほうを重要視して、法令遵守というのが一部おろそかになってしまう可能性があり得るのです。そういった観点から、企業の不祥事なども起こることがあるわけです。
ですから、企業としては、そういったことが起こらないような体制を作っておく必要性がある、と言われていますが、実はコンプライアンスを達成するということは、企業が利益を上げていくためにもとても重要です。近年は、コンプライアンスを徹底していなかった企業による不祥事が起こり、それが原因で倒産にまで至ってしまうという事例が増えてきていると言われています。社会的な非難が大きくなって、その不祥事が大きく表に出ることで、あの企業はもう信用できないという信用のリスクがとても上がってしまう。そのために、企業が社会的に非難されて、それで利益を全く上げられなくなって、ひいては倒産してしまう、なんていうこともあり得るということです。ですから、法令を守るということは、薬剤師の皆さんも、会社のためにも非常に重要視する必要性があるということが言えると思います。
不祥事が起きても昔ならすぐに忘れられていたかもしれませんが、最近はインターネットがあるので、その事実はなかなか消えません。例えば違法な行為があった企業を就職活動の際などにネットで検索すると、その違法な行為が検索ですぐ引っかかってきます。ですから近年は、個人の場合はいつまでもその不祥事が残ってしまうのは気の毒だということで、「忘れられる権利」というものも一部認められるべきだ、なんていう議論も出てきているぐらいです。ですから、一度不祥事を起こしてしまうと、仮に倒産に至らなくても、今後の企業活動、また薬剤師の信用についても大きな影響を与えることになるので、コンプライアンスを重要視しておくということが必要になってくるわけです。
今回のまとめポイント
・コンプライアンスといわれるものは通常は「法令を遵守しなければいけない」という意味である
・近年は、法令違反による不祥事が原因で倒産まで至ってしまう事例も増えている
・コンプライアンスの達成が、企業の利益を上げていくために重要である
中外合同法律事務所パートナー, 薬事・健康関連グループ代表
弁護士・薬剤師
薬剤師の勤務経験がある弁護士として、薬事・健康・個人情報保護等にかかる問題を多く取り扱う。主な著書に「医薬品・医療機器・健康食品等に関する法律と実務」(日本加除出版株式会社)、「赤羽根先生に聞いてみよう 薬局・薬剤師のためのトラブル相談Q&A47」(株式会社じほう)等がある。