【第二回】法律と区別して覚えたい「法令・規則・通知」とは - 薬剤師が知っておくべき法律のイロハ –

憲法が持つ二つの性質
世の中には法律だけではないさまざまなルールがあります。今回は法令がどのように定められているか、に目を向けながら、法令の体系についてお話いたします。
前回お話ししたように、憲法というのが基本的に一番上位概念にあり二つの性質を持っています。一つは、「国民の権利が過度に害されないように、表現の自由や営業の自由などの基本的人権を守る」という性質。もう一つは「国会に法律を作っていいという権利を与える」という性質です。これは授権規範とも呼ばれており、「憲法から国会に法律を作る権利を与えられて、国会はそれを基に国民の権利を制限していくということができる」というものです。もちろん、他の権利を侵害しないといった必要最低限の範囲でルールを作ることができるということが定められているのです。
法律だけではない政令や規則、条例の決め方
「薬剤師法」という法律があるというのはご存知かと思いますが、そのほかに、「薬剤師法施行令」という法令や、「薬剤師法施行規則」という法令があります。これは法律ではなく、政令と呼ばれるものです。政令というのは、内々施行令ということで内閣が定めるルールということになりますし、いわゆる施行規則というようなルールは、基本的には各省庁が定めています。例えば薬剤師法であれば、厚生労働省が作ることから「厚生労働省令」などと言われます。
法律というのは、国会という組織が作るわけですが、必ずしも国会というところは薬事行政に詳しいわけでもないですし、その専門家たちの集まりではありません。ですから、国会ではその権利を制限する大元のルールは作るけれども、細かいルールは内閣に任せたり、専門家の集まりである厚生労働省などの省庁に一部委任をするのです。憲法から「法律が権限を制限する」というルールを与えられて、さらに法律から「その細かなルールの委任を受けて、政令や規則が定められている」ということになります。
条例は地方自治体が独自に作るものなので、その地方独自のルールです。これも、基本的には法律に反しない範囲で作らなければならないものですが、少し性質が違うものとご理解ください。
薬剤師が注意すべきルール
薬剤師が業務をするなかで、いろいろなルールに縛られているわけですけども、ここで重要なのは、必ずしも法律だけを理解していれば、それで足りるわけではないということです。さらに、そこから委任を受けている施行令、施行規則というものまで見ないと、自分がどういうルールで縛られているかが理解ができないということになりますので、それをぜひ意識していただきたいと思います。
さらに、通知というものがあります。厚生労働省が出す通知とは、厳密に言うと法的な拘束力はありません。一般の方が、法律の解釈がよくわからないというときに、厚生労働省などの各省庁が、国の行政機関として、この法律や法令はこういうふうに解釈しますという解釈の一部を示すものが、さらにその下の通知ということになります。実際は、その監督官庁である行政の指示に従って業務を行うということになるので、規則を見て、さらに通知まで見ておくというのが、本来業務を正しく行うためには重要な点かと思います。
一例を示すと、例えば薬剤師法の25条には、「薬剤師は、販売又は授与の目的で調剤した薬剤の容器又は被包に、処方せんに記載された患者の氏名、用法、用量その他厚生労働省令で定める事項を記載しなければならない」ということがルール化されています。これが、まさに薬剤師法で基本的な制限をかけて、さらに細かい点については、厚生労働省令で定めるということになっている点です。厚生労働省令、薬剤師法の施行規則の14条には、さらに「その他、調剤年月日、調剤した薬剤師の氏名、調剤した薬局の名称及び所在地を書かなければならない」と定めています。皆さんが業務で行っている通りかと思いますが、これは施行規則のほうで定められているということです。
実際に法律と法令はこういう関係になっているということです。
今回のまとめポイント
・憲法には権利を守る性質と法律を作って良いという権利を与える性質の二つがある
・政令や規則、条例は国会だけではなく、内閣や省庁、自治体によって作られている
・薬剤師は法律だけではなく、規則や通知まで確認することが正しく業務を行う上で重要である
中外合同法律事務所パートナー, 薬事・健康関連グループ代表
弁護士・薬剤師
薬剤師の勤務経験がある弁護士として、薬事・健康・個人情報保護等にかかる問題を多く取り扱う。主な著書に「医薬品・医療機器・健康食品等に関する法律と実務」(日本加除出版株式会社)、「赤羽根先生に聞いてみよう 薬局・薬剤師のためのトラブル相談Q&A 47」(株式会社じほう)等がある。