【第一回】法律と憲法、それぞれの性質 – 薬剤師が知っておくべき法律のイロハ –

日本の法律と憲法の違いとは
法律という言葉はよく使われますが、まずはその意味や性質という基本的な部分をお話ししていきます。
法律ですから、『なんとなく守らなければいけない』ということだけは理解されているかと思います。しかし今回は法律の性質を探る前に、まず憲法に目を向けてみたいと思います。
憲法というのは、法律ではありません。“法ではあるけども、法律ではない”という性質のもとに存在しており、有名な憲法13条の条文には、『すべて国民は、個人として尊重される。生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利については、公共の福祉に反しない限り、立法その他の国政の上で、最大の尊重を必要とする』と書かれています。
これを読むと、基本的に国民は自由で、いろいろな行動ができるとも言えます。しかし、何でも自由———例えば犯罪をするのも自由———ということになってしまうと、大変なことになります。行動は自由になる一方で、生命身体を害してしまうような、一方の自由や権利を害してしまう恐れがあるとも言えるのです。そのために、『公共の福祉に反しない限り、権利や自由が衝突する場合に、どちらか一方の権利を制限しなければいけない』と定めているのです。
なぜ制限するのでしょうか?“立法”という言葉がありますが、ここには『権利と権利の調整をするために制限をするのだ』ということが書かれています。その性質を持つものが法律であり、それを定めている国会が、国の唯一の立法機関であるということを憲法は記しているわけです。
国民の権利を制限するという強い性質を持っている法律なので、あくまで国民の代表である国会がその法律を制定しなければいけません。国民の代表である国会が、皆で合意をして、ようやく国民の権利を制限していくという形になっているわけです。
ですから、基本的に法律というのは、人権や権利や自由を制限する性質がある、非常に重要なものなのです。
法律を無効にすることができる憲法81条
法律は国会で決まりますが、ご存知のように国会では基本、憲法の中で特別に定めのある場合を除き、法律案は“両議院で可決したとき”に法律になります。
両議院の可決とは「過半数で可決する」ということです。国民の代表が、過半数で可決するとなると何が起こるでしょうか?それは、「少数派の人権を侵害するような法律を作ることが、理論上は可能になってしまう」ということです。例えば表現の自由や、営業の自由というものがあります。「薬剤師は免許がなければ業務ができない」というのも、営業の自由を制限するものの一つになります。自由を制限する行為なので、必要かつ憲法に反しない範囲で行う必要があります。しかし、過半数で決めるということになると、少数派の人権をないがしろにしてしまう可能性があるのです。そして万が一、そのような法律ができてしまったときのために、憲法の81条があります。皆さんご存知の通り、「違憲立法審査権」という憲法によって、憲法に反するような法律や権利を制限してしまうようなルールを作ったときには、裁判所が、それは憲法に違反する法律なので、違憲だということで、それを無効と判断する可能性があるということです。
ここで覚えていただきたいのは、法律は権限や権利を制限するというものであることと、法律も場合によっては間違っている(憲法に違反するような法律ができてしまう可能性もあり得る)こと。そのために憲法の81条があるのだということです。これらを理解していただきたいです。
ちなみに、薬剤師に関するものであれば、薬局距離制限違憲判決というものが昭和50年に出ています。薬局の距離を制限し、「100メートルに1件しか薬局を作れない」という規定がありましたが、それは最高裁によって憲法に反する法律だということで、無効化されました。、今薬局はどこにでも作れるようになったというのは、そういう経緯もあったということも知っておいていただければと思います。
今回のまとめポイント
・法律は憲法で定めた国民の自由や権利を制限する効果がある
・憲法81条によって、間違った法律を正すことができる
・薬局距離制限違憲判決では、実際に薬局の距離制限に関する法律を無効化した
中外合同法律事務所パートナー, 薬事・健康関連グループ代表
弁護士・薬剤師
薬剤師の勤務経験がある弁護士として、薬事・健康・個人情報保護等にかかる問題を多く取り扱う。主な著書に「医薬品・医療機器・健康食品等に関する法律と実務」(日本加除出版株式会社)、「赤羽根先生に聞いてみよう 薬局・薬剤師のためのトラブル相談Q&A 47」(株式会社じほう)等がある。