第8回【連載】ドイツ文学者(魔女研究家)西村佑子先生が語る「グリム童話と薬草」

皆さまは薬草と人間のつながりについて考えたことはございますでしょうか。本連載では、ドイツ文学者であり魔女研究家としてもご活躍される西村先生より薬草と人間の結びつきを歴史や文化の面から紹介していただきます。新年の初めはグリム童話に登場する薬草の話です。グリム童話は全部で210話あります。その舞台はほとんどが森と村です。ですから、森の木々、畑の農作物などたくさんの植物がでてきます。それらの中で特に重要な役割を担っている植物を2つ紹介します。

ラプンツェルの名付け親は女魔法使い

「ラプンツェル」はドイツでとても人気のあるお話です。薬草と関係のある前半部分だけになりますが、あらすじを簡単に紹介します。

あるところに妊娠した女性が隣の家の庭に生えている野菜がどうしても食べたくなります。夫に採って来てほしいと言いますが、その庭は女魔法使いのものでした。夫はどうしても食べたいという妻のためにこっそりその野菜を盗んでしまいますが、2度目には女魔法使いに見つかってしまいます。盗んだ理由を聞いた女魔法使いはそういうわけならいくらでもあげるが、生まれた子どもはいただくよというのです。夫は怖さの余り承知してしまいます。子どもが生まれると女魔法使いがやってきて、その女の子に「ラプンツェル」という名前をつけて連れ去ってしまいました。


女魔法使いの菜園を見下す夫婦(オットー・ウッベローデ画)

女魔法使いは、ラプンツェルが12歳になったとき、その子を入口のない高い塔の中に閉じ込めてしまいます。女魔法使いは、ラプンツェルが塔の上から垂らす長い見事な金髪につかまってよじ登り塔の中に入るのです。

塔の上から降りてくる金髪のイメージがあまりにも強烈なので、多くの画家がその場面を絵にしています。ラプンツェルといえば金髪の髪なのです。


「ラプンツェル」(H.レフラー/J.ウルバン画)


「ラプンツェル」(オットー・ウッベローデ画)

塔のモデル(トレンデルブルク城/ドイツメルヘン街道)

緑黄色野菜の名前でもあったラプンツェル

では、話の発端となった野菜はどのようなものなのでしょうか。ドイツ語でフェルトザラート(オミナエシ科)、あるいは「ラプンツェル」という緑黄色野菜です。原産は地中海沿岸で、17世紀頃になって菜園で栽培されるようになったそうです。
ラプンツェルはドイツでは生野菜サラダとしてよく食べます。野菜売り場ではパックになって売っています。ビタミンAやC、鉄分、ミネラルが豊富ですから、おそらく妊婦にもよい野菜なのだろうと思います。
和名は野ヂシャですが、チシャ(キク科レタス)とは別物です。日本ではマーシュ(フランス語)で知られているようです。種子はマーシュあるいはコーンサラダの名前で通販などで買えるようですから試してみたらどうでしょう。春先に種を播くと、すぐにも芽を出し、あっという間に葉になり、そのまま摘んで食べられます。ほっておくと可愛い小さな白い花がたくさん咲きます。サッとお湯に通しておひたしにして食べるのも美味しいですよ。


ラプンツェルの種袋
上段に「フェルトザラート―ラプンツェル」と書いてある


ラプンツェルの葉
そろそろ食べごろ


ラプンツェルの花

ハシバミには不思議な力がある

セイヨウハシバミ(カバノキ科)は落葉低木で、果実は皆さんもよくご存じの、お菓子に欠かせないあのヘーゼルナッツです。ヘーゼルナッツは栄養価が高く、整腸や老化防止に優れた効果をもたらしますが、高カロリーでもあるので、摂取量には気を付けたほうがいいそうです。それでもヘーゼルナッツ入りのクッキーやパウンドケーキは美味しくてつい食べ過ぎてしまいそうですね。


ヘーゼルナッツ(図解)


ヘーゼルナッツクッキー


ヘーゼルナッツチョコレート

さて、そのハシバミですが、この木の枝には不思議な力があると言われています。たとえば、水脈や地下資源を棒などで探し当てるダウジングという方法(あるいは占い)が昔からありましたが、ハシバミの木の枝はダウジングに大変強い力を発揮するとみなされています。また、若叩きと言って、ハシバミの枝で若者を叩くと、健康や幸せになるという風習もありました。


ダウジングの様子
中央左と左上の男性が二股になった杖を持ってダウジングしている

魔除けにもなるハシバミの枝

このような不思議な力を持っていると言われるハシバミですが、グリム童話ではどんな力を見せてくれるのでしょうか。
「ハシバミの枝」というお話があります。幼子イエスが昼寝をしている間に母親のマリアがイチゴを摘みに森へ出かけました。すると草の中からヤマカガシ(蛇)が飛び出してマリアに襲いかかってきました。マリアは急いでハシバミの藪に隠れると蛇はいなくなりました。マリアは「ハシバミが私を守ってくれたように、人間も守ってくれますように」と祈りました。それからというものハシバミは蛇のように地を這う恐ろしいものから人間を守ってくれる魔除けの木になりました。


「ハシバミの枝」(オットー・ウッベローデ画)

富と幸せを約束してくれるハシバミ

「灰かぶり(シンデレラ)」の幸せは、ディズニーアニメでお馴染みの魔法使いのおばあさんによってもたらされたのではありません。灰かぶりは旅に出る父親に土産は何がいいかと聞かれて、帰り道で最初に帽子にあたった木の枝を頼みます。灰かぶりがそれを亡き母の墓に植えると、枝はすぐに大きな木になります。灰かぶりがこの木の下で王子さまの舞踏会に着てゆくドレスや靴を頼むと小鳥がそれを持ってきて木の上から落としてくれるのです。もうおわかりかと思いますが、この木がハシバミなのです。


母親の墓にハシバミを植える灰かぶり(ルートヴィヒ・リヒター画)


灰かぶりの上靴はガラスではなく金製です(ルートヴィヒ・リヒター画)

中世ドイツには財産譲渡の印として草茎を相手に渡すという法律がありました。灰かぶりが父親にねだったのはまさに草茎です。父親もそれを承知したのです。それでハシバミの枝を灰かぶりに渡したのです。ドレスや宝石を頼んだ二人の姉さんとはくらべようもなく灰かぶりは賢い娘ですね。ハシバミはちゃんとその役割を果たしたのです。

おわりに

グリム童話にはここで紹介した魔除けや幸せをもたらす植物のほかに、亡くなった人を生き返らせる再生の葉も良く出てきます。しかし、残念ながら「葉」とか「青い葉」としか書かれていません。もっと具体的な名前が挙がっていればいいのになあと思ったりもします。では再生の願いを叶えてくれる植物はあるのでしょうか。来月は「不老不死と薬草」のお話です。

西村 佑子(にしむら ゆうこ):早稲田大学大学院修士課程修了。青山学院大学、成蹊大学などの講師を経て、現在はNHK文化センター(柏・千葉教室)講師。2014年「魔女の秘密展」(東映・中日新聞企画)の監修。主な著書に『グリム童話の魔女たち』(洋泉社)、『ドイツメルヘン街道夢街道』(郁文堂)、『魔女の薬草箱』、『不思議な薬草箱』(ともに山と渓谷社)、『魔女学校の教科書』(静山社)など。

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