第7回【連載】ドイツ文学者(魔女研究家)西村佑子先生が語る「クリスマスと薬草」

皆さまは薬草と人間のつながりについて考えたことはございますでしょうか。本連載では、ドイツ文学者であり魔女研究家としてもご活躍される西村先生より薬草と人間の結びつきを歴史や文化の面から紹介していただきます。

クリスマスと薬草

今年の冬至は12月22日です。日本ではカボチャを食べてゆず湯に入る習慣がありますね。カボチャは夏の野菜ですが、収穫後数か月したほうが美味しくなるということです。ビタミンやカリウムなど栄養価も高いので、風邪防止にも効果があるそうです。夏のエネルギーをためたカボチャを冬に食べるのも生活の知恵でしょうか。
その冬至が終わる前に、ドイツはすでにクリスマス期間に入っています。クリスマスは12月25日の4週前の日曜、今年は12月2日から始まります。今月はクリスマスにちなんだ薬草のお話を紹介しようと思います。


キリスト降誕(ドイツのクリスマス飾り)©️ショップダンケ

クリスマスツリーにヤドリギを飾る

クリスマスに欠かせないのがクリスマスツリーですね。欧米ではクリスマスツリーにヤドリギを飾り、その下では誰でもキスをしていいという風習があるそうです。風習と言っても19世紀頃に作られた新しいもののようですし、必ずしもヤドリギが飾られるとは限りません。でも、ヤドリギは常緑樹なので、その緑の葉と真珠のような美しい実をたくさんつけた枝はツリーの飾りとして造花とは比べようもなく素敵なオーナメントになるでしょう。


真珠のようなヤドリギの実

魔除けに使われたヤドリギ

ヤドリギについてはいくつも言い伝えがありますが、もっとも有名なのがケルト人の儀式に出てくるヤドリギです。ケルトの司祭ドルイド僧は6月になるとオークの木に宿ったヤドリギの枝を金の斧で切り落とします。枝は木の下に広げられた白い布で受け止められ、この枝をもらった人はそれを身に付けてお守りにしたということです。汚れた土に一度として触れることがないヤドリギは神聖なものとみなされ、魔除けにされたのです。


戸口に飾られたヤドリギ

ヤドリギ(ビャクダン科)は文字通り他の木に宿って成長します。鳥が食べたヤドリギの種が糞となっていろいろな木に落ちてそこに寄生します。果実は粘着質でベタベタするので、木の枝などに塗って鳥類を捕獲するときに用いられたこともあったようです。なおヤドリギには皮膚のただれを起こす毒成分が含まれているので、触れたり食べたりしないほうがいいと言われています。
ヤドリギが宿る木は主にポプラ、シナノキ、マツ、トウヒなどいずれも落葉樹なので、葉が落ちたあとでは、ヤドリギの塊がよく見えます。この塊にすっかり占領された木はやがて枯れてしまうそうです。


ヤドリギ


木にびっしりと寄生するヤドリギ

クリスマスマーケットとグリューヴァイン(ホットワイン)

クリスマスの時期に欠かせない飲み物がグリューヴァイン(ホットワイン)です。各都市で開かれるクリスマスマーケットでは寒さを吹き飛ばす温かいグリューヴァインの屋台が大賑わいです。


クリスマスマーケット(ニュルンベルク)©️NOZOMI SUZUKI


グリューヴァインのお店(ニュルンベルク)©️NOZOMI SUZUKI

グリューヴァインは薬草が主役

グリューヴァインは家庭でも簡単に作れます。作り方や材料は様々ですが、欠かせないのがシナモンとクローブ(丁子)です。赤ワインにこれらの香辛料とレモンの輪切り、砂糖などを入れて温めるだけです。
シナモン(クスノキ科)は樹皮を薄く巻いたスティックとパウダーとがあります。あの独特な味と香りが好きという人や樟脳しょうのうのような香りが苦手という人もいるようです。シナモンには毛細血管の老化を防ぐ効果がありますが、肝障害など副作用もあるといわれているので、過剰摂取には気を付けたほうがいいようです。


シナモン

クローブ(フトモモ科)は花のつぼみを乾燥させたものです。クローブは和名で丁子(ちょうじ)といいますが、確かに丁の字に見えるので面白い命名だと思います。鎮痛効果や抗菌作用に優れています。クローブも強い香りですが、料理には欠かせない香辛料の一つですね。


クローブ

クリスマスマーケットで売られているグリューヴァインの値段はだいたい1カップ5ユーロ(700円)くらいですが、カップを返却すると約2ユーロ返ってきます。ところがこのマグカップの絵柄はその町ごとに違うオリジナル製なので、記念に持ち帰る人も多いようです。


ドレスーデンのマグカップ ©️NOZOMI SUZUKI


フランクフルトのマグカップ

クリスマスローズはなぜクリスマスに花咲くのか

清楚な白い花を咲かせるクリスマスローズはヘレボルス(キンポウゲ科)の一種で、クリスマスのころに咲くものだけを言います。ヘレボルスの原種は20種類以上もあり、花の色もさまざまですが、日本ではすべてクリスマスローズと言っています。クリスマスに白い花というのがいかにも清純なイメージと重なるのか、それにふさわしい言い伝えがいくつかありますが、その一つを紹介します。
救い主キリストの誕生を知った少女がキリストに捧げる花がなくて悲しんでいると、天使が現われて、雪に覆われた地面に手を触れました。すると、そこに白い花が咲きました。それがクリスマスローズだったというのです。雪の上に咲く白い花と天使の組み合わせはいかにも幻想的で美しいイメージですね。


「静かにクリスマスを待つ」(ザイフェンおもちゃ博物館所蔵のジオラマ/ドイツ)

根は黒く有毒なクリスマスローズ

ところがクリスマスローズには恐ろしい顔もあるのです。クリスマスローズは学名を「ヘレボルス・ニゲル」といいます。“ニゲル”は黒いという意味で、黒い根を持った“ヘレボルス”ということです。ドイツ語では別名「くしゃみ草」と言います。クリスマスローズの葉や根茎を摂取すると、くしゃみくらいで済めばいいのですが、嘔吐、下痢、目まい、口内の爛れなどを起こします。昔はこれを強心剤や堕胎薬として使っていたようです。
イギリスの植物採集学者ファーラー(1880-1920)はクリスマスローズについて「花びらは純白だが、本当に純真な心をもっているかどうかはわからない。なぜなら根は黒いからである」と言っています。なかなかうがった見方で面白いですね。
ではクリスマスローズの根は本当に黒いのでしょうか。実際は細い根が絡み合っていて、色は茶褐色です。それなのになぜ「黒い」というのでしょうか。私なりにずいぶん調べてみましたがわかりませんでした。ひょっとしたら根に毒をもつので恐ろしいイメージとして黒いという表現を使ったのかとも思います。


ヘレボルス・二ゲル(図解)


ヘレボルス・ニゲル

おわりに

ヤドリギを飾ったクリスマスツリー。そのそばに座って飲むグリューヴァイン。窓辺にはクリスマスローズの鉢植え、今しも降り出した雪。薬草がきっとクリスマスの夜をロマンチックに演出してくれるでしょう。
やがて除夜の鐘が聞こえてきます。皆さま、どうぞ良きお年をお迎えください。新年の最初の月は「グリム童話と薬草」についてのお話です。

西村 佑子(にしむら ゆうこ):早稲田大学大学院修士課程修了。青山学院大学、成蹊大学などの講師を経て、現在はNHK文化センター(柏・千葉教室)講師。2014年「魔女の秘密展」(東映・中日新聞企画)の監修。主な著書に『グリム童話の魔女たち』(洋泉社)、『ドイツメルヘン街道夢街道』(郁文堂)、『魔女の薬草箱』、『不思議な薬草箱』(ともに山と渓谷社)、『魔女学校の教科書』(静山社)など。

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